Interface誌2月号の特集は「作るOS・言語・コンパイラ 低レイヤ入門」:入門と言うには難しい

 Interface 2021年 2 月号の特集は「作るOS・言語・コンパイラ 低レイヤ入門」。イントロダクションのページに1週間マスターとあるが、今回の本誌の内容を1週間でマスターするのは難しいだろう。たとえば、コンパイラの解説でもLR構文解析が紹介されている。本格的といえば、本格的なのだが、入門としては難しすぎるだろう。
 内容としては、本格的である。でも、本書を手にとって、1週間でマスターできなかったからといって、悲観することは全くない。そもそもマスターする必要があるかどうかも難しい。マイコンが動くためには、こうした技術が支えているんだということが垣間見えればそれでいいように思う。

FPGAからASICへの移行をサポート

 IntelがArmコア集積ストラクチャードASIC、FPGAからの移行が容易には、いい取り組みだと思う。製品はASIC化が前提だが、いきなりASICを作るのはリスクが大きすぎるので、一旦FPGAで作って回路検証してからASIC化するというのは、現場ではよくある話である。私も何度か経験している。でも、FPGAで検証しているから、その後のASIC化が簡単かというと、そうはいかない。いろんな違いがあって、結構大変なのである。その苦労が少しでも少なくなるというのは、現場の技術者にとってうれしいことだ。

ケイオスエンジニアリング:わざと障害を起こすことで、運用を含めたシステムの耐障害性を向上させる

 東証でサーバーのハードウエア障害が発生したときに、システムが切り替えられなかったという事例で象徴されるように、設計段階でいろんな障害を想定して手を打っていても、それがうまく動くとは限らない。
 実行中のワークロードに対してさまざまな障害を人為的/実験的に発生させ,障害に対するシステムの挙動を観察し,障害対策を強化していくというケイオスエンジニアリングという考え方があって、Netflixでは実際に数年前から取り組んでいるという。(すべてのユーザにケイオスエンジニアリングを ―AWS Fault Injection Simulatorが実現するマネージドな障害”実験”
 すごいの一言である。でも、実際の運用で、障害がないなどということがあり得ないということを考えると、こういう方法は実際的なのだと思う。でも、そこまで費用をかけられるのか、というのが課題であろう。そして、それは、そのビジネスにとって、信頼性がどれだけ重要で、かつ、障害対策に費用をかけられるだけ儲かるビジネスなのか、ということになる。日本でこれができるところは、ほとんどないだろうなあ。

仕様変更:確かに開発者にとって「最大の試練」だ

 ソフトウェア技術者のためのバグ百科事典(15)最大の試練、仕様変更で起きるバグで、仕様変更が開発者にとって最大の試練というのは、その通りと思う。
 ただ、何か試練か、ということが、少し意見が異なる。私の経験では、仕様変更があっても、納期はそのまま、である。仕様変更したのだから納期はかかります、という正論が通ったことは「1回もない」。これは事実だ。1回もない。結果的に納期が延びてしまったことは、何度もあるが。
 開発者は真面目なので、仕様変更はするけど、納期はそのまま、に対応するために、自分の時間を全てプロジェクトに注ぎ込む。その結果が、デスマーチである。

とうとう802.11ahが国内商用化?:やっぱり802.11というのが有利か

 802.11ahは、802.11といいながらWi-Fiではない。920MHz帯を使ったIoT通信規格である。当然、通信速度も遅い。たぶん、性能も他の920MHz帯と大幅に変わるとは思えない。無線は物理的制約が大きいからだ。
 IoTの可能性を広げる802.11ah、国内商用化に向けた「最後の山場」を迎えるによれば、この規格が使えるようになるまで、もう少しらしい。IoTといっても、センサー応用はまだまだで、デファクトと呼べる方式はない。802.11規格というのは、知名度としては抜群である。後発ではあるが、これが本命なのかもしれない。または、結局、普及しないか・・・

セキュリティ企業でもハッキングされてしまう怖さ

 米FireEye、サイバー攻撃でセキュリティー診断ツールが盗まれたと公表は、圧倒的に攻撃側有利の情報セキュリティの恐ろしさを示している。
 セキュリティ技術を売り物にしている会社である以上、自社の対策は、十分とているはずである。なにせ、自社が攻撃に負けたら、そんな会社の信頼がガタ落ちだからだ。それでも、やられてしまう。
 普通の会社なら、目をつけられたら必ずやられてしまうと考えるべきだろう。本当に、やっかいな時代である。

簡単な回路だけどありがちな内容:昔の製品を検討もせずに部品を置き換えた製品

 壊れていない基板の修理は、面白い内容だ。題材の回路は簡単な回路である。フォトカプラの動作さえ把握していれば、すぐにわかるだろう。
 故障だと思ったら、回路設計の不備だったという話である。しかも、著者の推測によれば、TTL回路をそのままCMOSへ置き換えてしまったのだろうという。確かに、入力をオープンにしておくなど、CMOSではあってはならない話だ。でもTTLなら、オープンにした入力はHになる。もちろんノイズには弱いので、プルアップするのが定石だが、CMOSのように、入力をオープンにしたからラッチアップして故障するということはない。著者の推測通りだと思う。
 使っているフォトカプラの仕様もたぶん違っていたのだろう。フォトカプラとして最も重要な仕様であるCTRを満足していない設計などあり得ないからだ。それにしてもCTRが100~600%というのは、バラツキとしてはかなり大きい(50~600%というのもある)。とはいえ、それを考慮できていない設計というのはあり得ない。簡単な回路だからとバカにしてはいけない。

中国もオープンソース活用

 オープンソースに本腰入れる中国 政府系シンクタンクが白書を発行は、ちょっとした驚きだ。とうとう、中国もオープンソース活用なのか、ということである。そもそも、私のように古い技術者は、中国といえばライセンス無視の国だった。でも、そこから脱却しようというのだろう。その時に、ちょうどオープンソースがあった、ということに違いない。
 いいものなら、あっという間に利用するだろう。日本なんかよりも・・・。

製造業なのに「モノからコトヘ」と言い始める企業はこれから危ない:全く同感

 製造業なのに「モノからコトヘ」と言い始める企業はこれから危ないという記事には、まったく同感である。理由は、異なるが。
 前職は、大手電機メーカーであった。何年も前から「モノからコトヘ」という連中が増えてきていた。その会社は、今でも低成長であり、コト事業なんてできていない。
 メーカーは、モノを作るところである。そのモノの価値が、コト中心に変わっただけである。「いつかはクラウン」という時期があった。モノを持つことが幸せだった時代だ。今は、そんなことはない。車で何ができるかが重要である。
 コトを考えたモノを作ることこそがメーカーの役割である。コトの提供で儲けようというのは、たぶん無理だ。大手企業のエリート達は、自分の能力を過信し、コト・ビジネスだってできると思っている。大きいな間違いだろう。
 実のところ、モノ・ビジネスで儲けてきたのは、エリートではない現場の力だったと思う。コト・ビジネスを支える現場は、今のメーカーにはいない。10年もあれば、現場も育つかもしれない。でも、それまでに経営危機になる可能性が高い。と思う。