枝雀らくごの舞台裏:枝雀ファン必読の本

 落語作家で生前の桂枝雀とも親しかった著者が、それぞれの演目のちょっとした解説と、それにまつわる桂枝雀の思い出について書かれた本である。枝雀落語の中から48の演目について解説されている。
 例えば、私の大好きな演目の1つである「代書」から少し引用してみる。

 この話の主人公である松本留五郎は枝雀落語の・・・・というより上方落語界、いや我が国落語界のスーパースターである。
 大阪市浪速区日本橋3丁目26番地の生まれで年齢は46歳。父は20年前に亡くなったは母親は健在。生年月日は年度こそ不明だが1月1日。本籍地内の小学校を2年で中退。職業は「ポン」。米菓を製造販売してを立てていたわけである。

 ここだけで「代書」のエッセンスが語られつくされている。他の演目の解説も、枝雀落語の面白さを語りつくしている。さらにはその演目の音源まで紹介されているという親切さである。
 桂枝雀だけではなく、師匠の桂米朝や弟子の思い出も語られていて非常に面白い。作品だけの紹介ではない面白さがある本である。
 一方、各演目で時期による芸の違いの解説などもあって、既に持っているDVD以外にも購入したくなってくるという副作用がある。ファンにとって危険な本でもある。
 ただ惜しむらくは、目次の部分で各演目のページが振られていないので、演目からその解説をたどるのに時間がかかる。残念である。資料性もある本なのでもう少し丁寧に編集して欲しかった。