スクールボーイ閣下:現場とスマイリーとの同時並行

 前にも感想を書いたスマイリー三部作の第2弾である。前作は、スマイリーの孤独な探索をメインにした話であった。本作は、スマイリーよりも、現場工作員のジェリーの活躍が目立つ作品である。
 現場の過酷さを理解しながら、探索を続けるスマイリー。その周囲で、政治でうごめく安全領域にいる人々。長編でしか繰り出せない物語だ。

燃える戦列艦:小さなエピソードの積み重ね

 前から感想を書いているホーンブロワーシリーズの第6巻である。主人公は、とうとう、海佐の中でも下から4分の1くらいのところに位置し、戦列艦の艦長になる。副長は、前巻から引き続きブッシュだ。前巻で、少しロマンスが芽生えかけたバーバラの結婚相手が提督となり、例によって、現場を知らない無能な提督のせいで大変な目にあってしまう。
 1つ1つは、短いエピソードの積み重ねで、ホーンブロワーの活躍が描かれる。

パナマの死闘:時系列的には第5巻だが執筆としては第1巻

 前から感想を書いているホーンブロワーシリーズの第5巻。いよいよ主人公は、フリゲート艦の艦長として大活躍する。
 ただ、読んでいて少し違和感があった。文章が少し堅い気がしたのだ。解説を読むと、ホーンブロワーシリーズの執筆としては、この巻が最初の作品だったらしい。その後、好評に応じて、ホーンブロワーの若い頃の活躍も執筆していたらしい。
 ストーリーとしては面白いのだが、文章としては前巻までの少し自由な感じの文章の方が好きだ。

 

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ:さすがスマイリー

 前に書いたように、スマイリーが主人公の作品を順に読んでいる。やはり本作品は、スマイリーものの最高傑作ではないかと思う。かなり長い作品で、スマイリーは引退した部外者でありながら、英国情報部の2重スパイ(もぐら)を見つけるという作戦を極秘に引き受ける。
 容疑者が、幹部なので、正式の調査はできない。本部に保存されている記録は、仲間のギラムに盗み出してもらう必要がある。何が起きていたかという事情聴取も相手がどこにいるかを探しながら、独自に進める必要がある。一歩、一歩、証拠を固めながら、真相に迫っていく。
 通勤電車で、終わりの30ページくらいまで来てしまい、そのまま会社へ行かず、喫茶店で残りを一気に読んでしまうはめになった。

高貴なる殺人:スマイリー登場の第2作の推理小説

 スパイ小説の第一人者のジョン・ル・カレ著作の中でも、主人公として登場したり、かげで登場したりするのがスマイリーである。本作は、前に感想を書いた「死者にかかってきた電話」に続く第2弾である。第2作とはいっても、本作は、スパイものではなく、殺人事件を追った推理小説である。イギリスの名門パブリックスクールの教師達、英国教会などの背景がわからないと、ピンとこないところも多い。

ゲイトウエイへの旅:中編小説と短編

 前に感想を書いたゲイトウエイシリーズの番外編である、主人公はブロードヘッドではない。
 だが、中編小説は、明らかに主人公を替えたゲイトウエイである。語り口、そのストーリーも。一方、短編の方は、ゲイトウエイの歴史の読み物を作るとしたらこういう形式になるのかも、と思わせるような内容である。

トルコ沖の砲煙:正規の艦長となったホーンブロワーの活躍

 前作では、海尉のままで艦長になったが、本艦は海佐として正式の艦長となったホーンブロワーの活躍を描く。とはいっても、年功序で言うと下っ端なので、小型艦の船長でしかない。しかも、部下は総入れ替えである。前作では、優秀な副長がいたが、本作の副長はあまり優秀とはいえない。しかも、ドイツの王子まで引き受けるはめになってしまう。
 前にも書いたが、やはり艦長としての活躍は、わくわくさせられる。

コンテナ物語:コンテナが輸送だけでなく物流網、産業構造まで変えた

 コンテナは、今や当たり前となった輸送手段である。本署は、その発明から普及までの歴史を追った本だ。
 コンテナ以前の船舶によるモノの輸送は、港における荷物の積み替え作業に多くの時間と人力を要していた。そこにメスを入れたのがマルコム・マクリーンである。コンテナにモノを入れたまま、船に積み込み、そのまま目的地でおろす。さらには、そのまま、トラックや鉄道に載せて運搬するという方法を考案し、実際に事業化した。しかし、その構想の実現には、コンテナを運搬できる船舶、コンテナを扱えるクレーンの開発と設置、などの様々な課題があった。さらには、こうした技術的問題だけではなく、今まで荷役を担っていた港湾労働者の労働問題、輸送に関する規制の問題などの技術以外の問題も山積する。
 こうした問題に対し、先駆者達が地道に解決していく姿は、コンテナが普及してしまった現在の目から見ると、回り道をしているようだが、でも、産業構造まで変えるほどの新しいものを生み出すというのは、こういうことなのだと思う。

 

砲艦ホットスパー:艦長ホーンブロワーの活躍

 前に感想を書いたホーンブロワーシリーズの第3巻である。主人公のホーンブロワーは、海尉のままで、いよいよ小さいながらも艦長に就任する。個人生活としては、下宿の娘マリアと心ならずも結婚してしまう。
 やはり、小さな艦であっても、艦長というのは、圧倒的な存在感である。どんなに不利な状況でも、知恵と勇気で乗り越える。そうした艦長としてのホーンブロワーの中編エピソード集だ。

 

ゲイトウエイ4:やっぱりブローヘッドの物語

 ゲイトウエイに出てきて独特の存在感のあったシキテイ・バキンのひ孫、ヒーチーの子供、などいろいろな登場人物が出てくる。また、メインストーリーとしては、暗殺者を探すというストーリーがある。
 でも、この物語は、結局はブロードヘッドの物語だ。機械貯蔵の知性となっても、相変わらずアインシュタイン・プログラムとダラダラとした対話を続ける。クララの新しい夫に嫉妬する。でも、結局、暗殺者の正体を突き止めるのは、結局、ブロードヘッドだったりする。このあたりの語りは、さすがである。