著者は、古代文明についての専門家ではない。土木・建築の専門家でもない。でも、技術に愛着のある人である。そんな著者が、ピラミッド、古代ギリシャ、古代ローマ、メソアメリカ・アンデス文明を石の文明という観点で、古代技術の素晴らしさを解説した本だ。
 専門家の書いた本ではないので、その語る内容の正しさ、というのを云々するのは野暮というものであろう。石の文明について語るにあたって、石材職人に話を聞きに行くという現場重視の技術者らしい行動によって、一般の概説書にはない面白さが追加されている。やっぱり、実物を見たくなってきた。

 谷沢永一お得意の、ある一人の作者を取り上げ、その作者の著作の中から名言をピックアップし、解説を加えるという著作である。


小説家の役目 
「私はそういうわけで小説という小さな説を書いてメシを食べている男であります。ときどき身のほどを忘れて中説や大説を書いてみようとすることがありますが、しばらくすると、また小さな説にもどります。」


 この開高健の文章に続く谷沢永一の解説は、こうである。


「開高健は、それまでの日本近代小説の感傷的な伝統から、己を如何にきっぱり隔離するかの思念を持して出発した。それゆえ、彼は政治宗教科学哲学の代用品であるかの如き従来の小説伝統を徹底的に拒否している。」

 なんだか、本の中で、知の格闘をやっているような内容である。今回の対象である開高健は、谷沢永一の畏友であった。それだけに、解説の冴えも素晴らしい内容である。

 

 少し前に開催されたラスコー展が盛況だったように、洞窟に残された絵画は我々を魅了する。ところが、そうした注目を浴びる絵画のそばに、ひっそりと記号のようなものが描かれているという。本書は、それまでの研究では着目されてこなかった記号に着目した研究をめぐる物語である。
 研究そのものに関する本ではなく、著者が関わっている研究をめぐって、洞窟の中へ入って写真を撮るということはどういうことか、などのエピソードをふまえて、ノンフィクション風に書かれているので、面白く読める。
 本の主張そのものである、これらの記号は、文字ではないが、人類が文字を発明する前の重要なものなのではないか?という仮説は、非常に説得力がある。本書が、まだ博士課程の学生による著書であるというのも驚かされる。

 一応、殺人は起きる。そして、謎解きもある。だからミステリーなのだと思うが、正統派のミステリーとはちょっと違う。というか、ミステリーとしての評価は大きく分かれそうな作品である。
 13歳の主人公が語り手とした、家族の物語として読む方がいいような作品だ。たんたんと語られる物語が、私は好きだ。

 意識はあるのに体をまるで動かせない「ロックイン」状態の患者は脳にニューラルネットワークを埋め込み、ロボティクス技術と専用オンライン空間の利用しているというのがこのSFの設定。そこで起こった殺人事件。なんだか、暗い話しになりそうなのだが、そうはならないのが、作者の腕である。
 この設定と、主人公が金持ちであるということをうまく活用して、活劇もあるSFミステリーに仕上げている。

 家康の部下としては武将たちが有名である。天下をとるまでは、当然そういう部下たちが活躍する。しかし、一方で、家康が来るまでは、ほとんど何もなかったに等しい江戸を首都として建てていくには文官たちの活躍が必要になる。
 治水、利水という都市建設には当然の工事から、貨幣鋳造のようにへ~という分野まで、どのように江戸が建てられていくのかを興味深く読んでいける。

 とにかく設定が素晴らしい。これだけで、どうしても読みたくなる。登場人物が少し類型的とか、いろいろ注文をつけたくなるところもあるが、そんなことは、ささいなことである。展開にひかれ、一気に読ませてくれる。

 日本を太平洋戦争に駆り立てた原因の1つが統帥権の問題である、というのは、司馬遼太郎も指摘している。だが、司馬遼太郎が、その統帥権が暴れだす時代を描くことは、ついになかった。
 その原因が明治憲法にあり、その欠点を誰がどのように利用して、統帥権という化け物に育てていったのか。その化け物化に対する抵抗と挫折の歴史がまとめられている。
 本来なら、明治憲法の欠点を改正すればよかったのだが、不磨の大典と呼ばれた明治憲法を改正するということは、誰にもできなかった。人が作った仕組みを聖域化してしまうことの恐ろしさがよくわかる。

 著者の今までの作品では、一匹狼的な主人公が多かった。この作品では、IT業界の最大の闇ともいえる多重下請構造の中での、エンジニアの地獄という過酷な開発者の実態が描かれている。1次請けが稼働の3か月前に、ユーザーに説明する際に、ユーザーからスマホ対応はできないのかと問われて、1次請けがすぐに対応します、と答える。それを実現するのは、8次請けの開発者である。
 だが、これは、あくまで登場人物の設定にすぎない。小説そのものは、謎解きをしながら進む警察小説である。警察小説としては、最後の方の展開に少し無理があるような気もするが、一気に読ませてくれる力量は、相変わらずである。

 読むところ全てで、?である。何で、というところからスタートする。でも、その後の説明で、納得する。「やりたいこと至上主義」とか、本当にその通りである。でも、それを言語化できるということが素晴らしい。
 ?の後の納得感が快感になる本である。

 

2017年7月

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