チャリング・クロス街84番地:読書が好きだが本を愛しているわけではない私には少し退屈な本だった

 書物を愛する人のための本というのが副題である。読書好きの私としては、いつか手に取って読んでみるべき本のように思っていた。実際に読んでみたら少し退屈だった。
 私は、読書の時間が好きである。でも、本そのものにこだわりはない。電子書籍で入手できるのなら、図版の多い専門書以外は、紙の本と電子書籍なら基本的には電子書籍を選ぶ。今出版されている本だけでも、読みたい本がたくさんあるのに、古書を買うということはめったにない(Amazonで古書が気軽に買えるようになって、かなり古書を買うようになったのは確かだが)。紙の本が増えると書棚からあふれるので、読み終えた本は売り払うことにしている。
 読書は好きでも、本を愛しているわけではない私にとって、「書物を愛する人のための本」が少し退屈だったのは当たり前のことかもしれない。

 

日本美術応援団:赤瀬川原平と山下裕二の記念すべき第1弾

 前にも、この2人の対談集を取り上げたことがある。本書は、そうした数多い赤瀬川原平と山下裕二との対談集の記念すべき第1弾である。この2人は、年齢も20才ほど離れ、この対談で初対面だったらしいが、その対談の掛け合いの面白さは、最初からであることがわかる。よほど、馬が合うのであろう。
 しかも、内容は、日本美術応援団という題名通り、日本美術を題材に、その感想を語りあうのだが、既成概念にとらわれず、素直に自分の感想を語りかける赤瀬川原平の話に応じて、アカデミックに属するはずの山下裕二も、そんな発言していいのだろうか、というような素直な発言をしている。美術というのは、こう見るべきということはなく、素直に見たままの感想でいいのだ、ということ。そこに、少し知識が追加されると、より面白いのだということが、わかる本である。

 

会社が消えた日:人ごととは思えない物語

 かつて、SANYOという個性的な会社があった。その会社が消えてしまう。経営観点だけでなく、社員の視点からも、消えてしまったSANYOを描いた物語。
 SANYOというのは、SONYやPanasonicに比べ、安物というイメージとユニークというイメージの入り交じったブランドであった。それは、一人一人は個性的で能力があっても、組織化した仕事の苦手なSANYOという会社の特徴がそのまま製品に出ていたのだということが、この本を読むとよく分かる。高度成長期には、一人一人の個性が業績に結びつく。ところが、不景気になると、組織力が十四になる。SANYOは、失われた10年を生き抜くだけの組織力がなかった。そして、個性はないが、組織力で勝るPanasonicに吸収されてしまう。
 SANYOの良いところは、典型的な大企業で官僚的なPanasonicの幹部社員から見て、異質の存在であったであろうことは想像に難くない。個性的なSANYOブランドを支えてきたキーマン達が、Panasonicを追われることになったり、大組織の中で埋没しまう。その物語をも追っていく。
 サラリーマン読者にとって、人ごととは思えない物語である。

 

地団駄は島根で踏め:語源を訪ねるという誰もやらないであろう旅

 「地団駄は島根で踏め」という題名は本当にひきのある題名である。
 地団駄のような語源を訪ねて実際にそこへ旅する、という旅のルポである。語源を訪ねて旅をするということを思いついた時点で、この本が面白いということは約束されていたようなものである。そして、実際に期待を裏切らない内容になっている。
 訪ねた場所は、何と23箇所。よくもまあ、こんなにあるものだ。少し紹介すると、急がば回れ(滋賀県・草津市)、ごたごた(神奈川県・鎌倉市)、らちがあかない(京都府・京都市)。行くだけでも大変だ。
 語源に関係する場所を実際に訪ねるだけでなく、旅の中で、その語源に関係のあるお土産まで紹介するという親切さである。こうしたちょっとした寄り道が、この本のおもしろさに、さらに花を添えている(花を添える、の語源て何なんだろう?)。

 

数学・まだこんなことわからない:かろうじて素人にも理解できる数学の未解決問題の解説本

 数学の未解決問題を解説した本である。私は、一応理系の大学を卒業しているが、数学の未解決問題は、そもそもその問題そのものが理解できないことが多い。未解決問題に関する本は多いが、全く理解できないか、やさしく解説しようとしてよけいにわからなくなっているか、数学者の苦闘の歴史になっているかのいづれかである。そんな中で、未解決問題そのものの輪郭だけでも理解させようとする本書は、素人にもかろうじて理解できる内容である。ただ、数学が苦手であった文系の人に勧められるかというと、さすがに読むのは難しいのではないか、と思う。
 さらに、最近の数学の進展により、中身が古くなっている部分もある。だが、この本は、そもそも問題に関する解説なので、古い本だから価値が減ずるわけではないだろう。

 

ゼロからトースターを作ってみた:課題設定は面白いのだが、少し腰砕け

 ゼロからトースターを作るということに挑戦した若者の記録。このゼロから、と言う意味が、そもそも鉄鉱石から鉄を作る、という本当に「ゼロから」トースターを作ることに挑戦している。
 課題設定は、非常に面白い。この課題設定の面白さにひかれて、本書を読んだのだが・・・。途中で少し飽きが来てしまった。課題設定は面白いのだが、この若者の行動に感情移入できないのである。ちょっと、腰砕けの読後感である。

 

東京ワンデイスキマ旅:東京周辺のスキマをめぐるーいろいろな場所、いろいろな人

  ヨミウリ・オンラインで連載されていた記事の単行本化である。スキマ旅というのは、有名な場所ではなく、その場所に関係のある人しか立ち入らないであろう場所へ筆者が出かけ、主としてお土産屋や飲食で会話するという旅のことである。
 これを読んで、そこに掲載されているところへわざわざ行きたいという人はいないだろう。現代人は多忙だからだ。
 でも、そんな実用性ゼロの本がなぜか面白い。観光地化されていない場所というのは、こんなにもいろいろな場所、いろいろな人がいるんだということに気づかせてくれるからだろうか。

 

消滅の光輪:司政官シリーズの長編-既に権威のなくなった司政官がいかにして滅亡する惑星から住民を退避させるか

 前に書いた司政官シリーズの長編である。司政官シリーズの長編は、本書と引き潮のときとがある。本書はSFマガジンで連載され、私もちょうどその頃はSFマガジンを読んでいたので、よく覚えている。それまでは、司政官シリーズというのは全て中編小説だったので、本書中編小説かと思っていた。連載時、第1回は「前篇」、第2回は「中篇」だったので、第3回は「後篇」で完結するかと思っていたら、「後篇・その1」となって、延々と連載された。毎号SFマガジンを買うほどのSFファンではなかったが、この連載を読む必要性があるので、SFマガジンを毎月買っていたことを思い出す。
 本書は、太陽の新星化に伴い消滅する惑星から、住民をいかに救出するのか、という難題を課せられた司政官の物語である。この時代、既に司政官の権威は失われていた。そんな中で、司政官として、住民の生命のみならず、惑星移住後の生活も考えた上で、惑星丸ごとの移住計画を立案し、実行するという壮大なスケールの話である。
 本書の最初に、「アイザック・アシモフ氏へ」という献辞がある。これは、アシモフの宇宙気流で惑星から住民を退避させたというエピソードがあるが、本当にこれを実行するとなったらどうなるのだろう、ということに着眼点を得て書かれた小説だかららしい。
 既に権威のなくなった司政官制度の中で、司政官としてのあり方を模索しながら、苦闘する司政官の姿は、司政官シリーズの中でも最も印象的だ。

 

ソーシャルメディアの何が気持ち悪いのか:ソーシャルメディアが現代社会に入り込んでいる状況がよくわかる

 私は中高年世代だ。インターネットや携帯電話は、社会人になってから使い始めた。ブログは書いてはいるが、SNSはやっていない。どちらかというと、人見知りのするタイプの典型的理系人間である私にとって、SNSを始める気になれなかった。
 ツールというのは、子供の頃からあるものと、若い頃に出会うものと、社会人になってから出会うものとで、使い方が異なる。子供は大学生だが、彼らの使い方は、私とは全く異なる。
 そういう意味では、この本は、私と同じ世代の人間から見たソーシャルメディア論にすぎない。でも、その内容は、中高年にとっては衝撃的なものである。いろいろなエピソードは、断片的には知ってはいるものの、こうして整理されて提示されると、今後の日本はいったいどうなるのだろう、と思ってしまう。
 でも、新しいツールというのは、使いこなすのに時間がかかるものだ。最初は、いろいろな問題も出るだろう。でも、そのうちに適切な距離感を持って使いこなせるようになるものだ。現時点では、気持ち悪い使い方がされているのだろうが、時間が経てば、それなりに落ち着くのだと思う。

 

ベストセラーのタイトルにおける男女差: PRESIDENT Onlineの記事より

 今、男が買う本、女が求めるビジネス書 NEWS FILE:PRESIDENT Online – プレジデントに面白い話が載っていた。ビジネス書のベストセラーのタイトルにおける男女差である。少し引用する。

 男性読者が購入するビジネス書は、タイトルに「嫌われる」「孤独」「心配」「一流、二流」「覚悟」等の言葉が入るケースが多い。
 (中略)
 逆に女性は「孤独」「心配」などネガティブな言葉を嫌う傾向がある。「~作成術」「~解決」と言ったポジティブ、かつ実用性を大切にして選んでいく。

 へぇー。そんなものか。と少し驚いた。私自身は嫌われるとか孤独とかいうタイトルの本はめったに読まない。最近で、唯一読んだのは「嫌われる勇気」 である。これもタイトルに惹かれて読んだのではなく、書評を読んで読んでみた本である。しかも、私にはあまりピンとこなかった本である。よく考えてみると、最近、本屋でタイトルを見ながらビジネスを買うという行動をほとんど取っていない。書評を見て、ネットで本を注文するというパターンが多い。良いことなのか、悪いことなのかはわからないが。