星を創る者たち:地味な短編ハードSF

 太陽系の惑星や月で基地建設などの土木工事をする技術者達を描いたハードSFの短編集。
 この小説のトーンは、登場人物の次の言葉に集約されている。

 前例を作るのは我々であり、責任を負うのも我々なのです。技術者という職種は、そのために存在するといってもいい。

 前例踏襲、事なかれ主義では、現場は何もできない。現場というのは、常に前例のない事象が発生するものだ。
 短編集の最後の方は、こういう現場技術者の話から少しはずれて、サービス満点の話しになる。私としては、最後まで、この地味なトーンの方がよかった。

ふりだしに戻る:タイムトラベルの古典

 少し前に、スティーブン・キングの11/22/63を読んだら、その解説に、本書のことが書いてあった。私の記憶では、高校時代に、高校の図書館で新刊を読んだ覚えがある。その時は、何とゆっくりとした小説だと思ったことを覚えている。
 再読してみて、このテンポこそが、この小説の持ち味であることがよくわかった。ストーリーを追うという読み方をしていた高校時代には、それがわからなかったのだろう。ただ、11/22/63に比べると、過去への郷愁が甘すぎることは確かである。ここで出てくる人たちは、乾板方式の写真機を買えるだけの収入のある人たちなのである。もっとも、そのことが、この小説の瑕疵になるわけではない。この甘さこそが、この小説の持ち味であろう。

 

竜の戦士(パーンの竜騎士1):いろいろな伏線が生きている

 少し前に、古本でしか入手できない本の感想を書いたが、これも古本でしか買えない。とはいえ、ヒューゴー・ネビュラ両賞受賞作なので、古本もかなり流通していて、簡単に買える。
 実は、TVで映画「エラゴン 遺志を継ぐ者」を見て、人間とドラゴンとの関係が、このパーンの竜騎士とよく似ていたので、急にこの作品が読みたくなったのである。シリーズものの例にもれず、シリーズの中でこの作品が最も面白い。
 竜と騎士との関係、赤の星とそれにまつわる伝説、今や廃れてしまった伝統を盛り返そうとする若い指導者、など、いろいろな要素が、うまい伏線とともに、小説として成立している。

11/22/63:スティーブン・キングのタイムトラベルSF

 ホラー小説の巨匠スティーブン・キングのタイムトラベルSFである。しかも、大長編だ。
 主人公が、ある穴を通ると、そこは過去の世界であった。その時点は、ケネディー大統領暗殺の4年前であり、主人公は、その世界に住み、ケネディー大統領暗殺を阻止しようとする、というのがメインプロットである。
 であるが、主人公の過去での生活がじっくりと描写される。過去の世界の、良い点も醜い点も含めて描き出されている。著者がこの作品を書こうとしたのは1972年だったという。なるほど、はるかな過去の世界なのに、あまりにリアルな描写である理由がよくわかる。日本人の私ですらそう思うのだから、米国人にとっては、なおさらであろう。タイムトラベルSFとかいう範疇を超えた作品である。

 

発狂した宇宙:宇宙の眼と並ぶ多元宇宙SFの古典

 以前、感想を書いた宇宙の眼と並ぶ多元宇宙SFの古典である。新刊は手に入らないので、古本で買うしかない。宇宙の眼はディックの作品なので、新刊が出たが、本書の著者はフレドリック・ブラウンなので再版される可能性は極めて低い。
 だが、未読の人は、古本で手に入るので是非とも読んで欲しい。文庫本の解説が筒井康隆なのだ。その筒井康隆が、「それにしてもこの作品をこれから読むという人、ほんとにしあわせな人ですなあ。」と絶賛している。
 私は、宇宙の眼よりも、本書の方が好きだ。SF作家が紛れ込んだ多元宇宙の地球では、通貨の単位が「クレジット」であり、月人や火星人も存在する。ワープ航法発見のきっかけはミシンの誤配線。SFのパロディである。この荒唐無稽な世界を、作者自身が楽しんでいる感じがする。気楽に読める古典である。

 

ストーカー:重版してくれて新刊で読めるとは

 別のブログでも書いたが、映画もあって、そのブルーレイ版が出たので、購入した。そのビデオを見ていたら、急に小説も読みたくなった。
 前に読んだのも、おそらくは、映画を見に行ってから読んだのだと思う。その時は、あまりのわけのわからなさに、途中でギブアップした記憶がある。たぶん、ストーリーが明確でない小説は面白くなかったのだろう。
 今回、再読して、相変わらず訳のわからない部分が多いが、それでも、本に引き込まれてしまった。この独特の世界は、小説でしか表現できないのではなかろうか。ビデオの方は、途中で眠くなってしまったが、本の方は引き込まれてしまった。

宇宙の眼:パラレルワールドの歪み具合がいかにもディックだ

 この小説を初めて読んだのは30年以上前になる。高校の図書館で借りた早川SF全集で読んだのである。久しぶりに再読してみて今でも読むに耐える内容であることにびっくりした。いわゆるパラレルワールドものなのであるが、そのパラレルワールドの世界の歪み具合が中途半端ではないのである。いかにもディックである。

 

アンドロイドは電気羊の夢を見るか:ブレードランナーとは異なる読後感

 映画ブレードランナーの原作として有名になり、同時に日本でディックの名前を有名にした本でもある。
 映画を先に見てしまったので、長い間、この小説の方は未読であった。読んでみて、確かに原作といえば原作だが、印象はかなり異なる。映像だけでは表現できない、ディックの世界があるのだ。読んでみてよかった。

 

vN:ロボットSF好きには面白そうな設定なのだが・・・

 主人公は、フォン・ノイマン式自己複製ヒューマノイド。この主人公のフェイルセイフという人間を守るための機構が、という内容で、いかにも、アシモフ以来のロボットものの好きなSFファンの興味を持てる設定である。
 さらには、眠ることをデフラグといったり、機能不全に陥ることをブルースクリーンと言ったり、コンピュータ用語もふんだんにちりばめられていて、なかなか面白い。
 ジェットコースターSFという触れ込み通り、次々と展開は変わっていく。でも、残念ながら、メインストーリーがあまり面白くないのである。正直言って、読み終わった満足感に欠ける。