日本史の論点:時代ごとに著者が異なるので読みにくい

 歴史というのは過去のことである。だから、変わらないかというとそうではない。歴史の見方は変わるのである。今の時点での日本史の世界で注目されている論点を時代別にまとめた書である。こういう書は少ないので、得がたい。でも、時代ごとに著者が異なるので、文章のトーンが違いすぎて読みにくい。もっとも、1人で書ける学者がいるわけもない。時代別に分けざるを得ないのは仕方なのだが。面白いところは面白い。

ローマ史再考:東ローマ帝国から見たローマ史

 私のローマ帝国史の知識のほとんどは塩野七生のローマ人の物語によっている。この長い物語で、キリスト教がローマを動かすようになってからは、明らかにトーンダウンしている。なによりも、前後関係がよくわからないことが多いのである。
 本書は、それを、コンスタンティノープルの名前のもととなったコンスタンティヌスからユスティニアヌスまでの東ローマ帝国初期の200年間の歴史を記載している。これを読みながら、そうだったのか、と思うことも多い。この予備知識を基に、ローマ人の物語を再読してみたい。

剱岳-線の記:行動する考察

 新田次郎の「剱岳・点の記」は強い印象を残す傑作である。三角測量点を設置するために命がけで剱岳に登頂成功したら、そこには昔、山伏が置いていった祈祷用の道具があったという話だ。この山伏はいったい誰で、どのように剱岳へ登頂したかを読み解くのが本書である。過去の文献をさぐるだけでなく、今でも難しい剱岳への登山を実際に経験しながらさぐっていく。この行動する考察力には、本当に引きつけられる。

  

古代史マップ:地図が素晴らしい

 この手の本は、いろいろあるが、マップという表題の通り、地図が素晴らしい。古代文明の名前と、その中心地の年の場所は知っていても、どれくらいの広さの文明であったのかは知らないことが多い。この本では、それが、一目でわかる。へ~、こんな広い範囲だったんだ、とか、以外に狭かったんだなあ、と楽しめる。

YS-11:熱い開発の物語

 YS-11という国産機の開発物語である。本当に熱い。技術者達の苦闘がわかる。ここまで頑張ったYS-11は、後継機種を作られることもなく、そのまま歴史に消える。
 技術者達の闘いは本当に熱い。でも、客観的に見て、本当に、旅客機という技術が日本に必要なのか、という気にも
させられる。
 YS-11のような技術を廃れさせた国はバカだと思っていた。この本を読んでも、腹が立つ。でも、今は、冷静に考えると利用技術こそ重要な時代のような気がする。国をあげて、もの作りを応援する時代ではないのかもしれない。
 現在、パイロットが不足している。これは、頑張って養成して欲しい。利用側の人材は重要だ。これを失うわけにはいかない。でも、飛行機そのものはどうなんだろう?海外から買ってきても、たぶん問題ない。全てのものを国産でまかなうなんて不可能だからだ。
 コンピュータのハードウエアよりも、ソフトウエアだ、というのと同じような構造なのかもしれない。

勘定奉行の江戸時代:時代劇では悪役の代表だが

 勘定奉行というと、時代劇では、たいていの場合、賄賂を受けて私服をこやす小役人の代表である。町奉行に関する本は多いが、勘定奉行を大々的にとりあげた一般向けの新書はあまりないので、興味深く読めた。
 幕府の実務の要職だったので、身分でがちがちの江戸時代の中で、実力主義で抜擢される。でも、実力で抜擢ということは、何かあれば、あっさり免職になってしまう。厳しい仕事である。

司馬遼太郎で読み解く幕末・維新:司馬遼太郎が扱っている時代の雑談

 前に、「司馬遼太郎」で学ぶ日本史:何を学べるのかを学べる本 – 読書右往左往を読んだので、その勢いで、よく似た題名の本を読んでみた。こちらは、何を読み解くのかはよくわからない。司馬遼太郎の本を列挙し、その時代に関する筆者の雑談を並べたように思える。でも、意外に、面白い。

「司馬遼太郎」で学ぶ日本史:何を学べるのかを学べる本

 TV番組「100分de名著」の内容に加筆したもののようだ。TV番組も見たのだが、やはり本にした方がよくわかる。
 司馬遼太郎の小説は、歴史小説であって、歴史書ではない。でも、我々にとって重要なのは、史実かどうか、ではなく、まず面白いかどうかである。
 面白さ以外の重要なことは、人それぞれだろう。でも、司馬遼太郎の本からこんなことが学べますよ、ということを語ってくれるのは、本から何かを学びたいと思うときには、いい手引書になる。司馬遼太郎の長編小説はすべて読んだのだが、へ~、こんなことも書かれていたのか、と気づくことも多い。
 筆者が歴史家ということで厳しい目のレビューが多いようだが、書名が歴史を学ぶ本のような書名だから誤解を与えるのだろう。歴史に詳しい人が、司馬遼太郎の本から学べることを教えてくれる本、と思って、軽い気持ちで手に取る本だ。

空間から読み解く世界史:従来と構成が変わった通史

 副題の、馬・航海・資本・電子から、名著「 銃・病原菌・鉄」のような切り口を期待したのだが、ちょっと期待外れであった。中身は結局、通史だ。著者によって、構成が工夫されてはいるが、馬・航海・資本・電子の切り口が活かされた内容にはなっていない。

ミステリーな仏像:少しマニアックすぎて、ついていけない

 世の中には、こんな不思議な仏像があるんんだ、という驚きの連続である。そういう意味では、この本の主は写真である。文章の方は、その不思議さを解説する内容になっている。ただ、私のような、仏像初心者には、内容が少しマニアックすぎて、ついていけないことも多い。マニアなら十分に楽しめるのではないだろうか。