コンビニ人間:自分をかくしてコンビニ店員として生きる生き方

 芥川賞受賞作でなければ、決して出会わなかったであろう本である。公園で死んでいる小鳥を見て、他の子どもたちのように悲しむのではなく、食べようと言った主人公の子供時代のエピソードが鮮明である。
 ちょっと変わった子供が、成長するにつれ周囲に隠れこむことを覚えていく。そして、コンビニ店員という、隠れこむ場所を見つける。
 これって、なぜかよくわかる。私も、会社という場に隠れこんでいるからだ。

ハーバード日本史教室:リーダー育成のための日本史

 ハーバード大学で日本史を教えている先生にインタビューした本。日本以外の国の、まともな大学で、日本史がどう教えられているのか、ということを知ることができる。我々の知らないことも多い。また、日本人というフィルタを通した日本史とは異なる見方も面白い。
 でも、この本を読んで感心したのは、日本史そのものではなく、教える側のスタンスである。リーダーを育成するというスタンスで教えられていることがよくわかる。ハーバードという大学は、リーダーを育成するための大学であり、その方針に従った内容なのだなあ、と感心したのだ。
 米国史とか経営学で、リーダー育成を意識するのはわかるのだが、日本史のようなマイナーな教科でも、リーダー育成である。欧米は、実は日本よりも学歴社会だという意味の一端が分かった気がする。

火星年代記:ブラッドベリの名作-オムニバスは好きではないのだが独特の味で読了

 ブラッドベリの古典SFである。火星に火星人がいて、そこへ地球人がやってきて、というお話である。舞台が火星で、登場人物がかわりながら、火星での物語が継続するというオムニバス形式の小説である。
 私は、オムニバスという形式はあまり好きではない。昔、読んだときは、途中で挫折した。でも、この小説には、独特の味があり、なんとなくひきつけられながら、今度は読了してしまった。現代文明に対する批判もたっぷりなのだが、そんなことよりも、小説としての味が抜群なのである。

深く考える力

巻頭の書き下ろしが素晴らしい。

将棋の大山名人の大局観のエピソードなど何度も読んでいるが、何度でも弧こりに響く。

 

永年の体験と厳しい修練を通してしか
掴むことのできない深い「知恵」を、
単なる「知識」として学んだだけで、
その「智恵」を身につけたと思い込んでしまう。

 

「結果」にすぎないものを、
「目的」にしてしまう。

 

私も本書の感想で、本書から抜き出しあ文章で、何か語れると思う間違いをしてしまっている。結局、引用では語り切れない。

 

定年バカ:定年とは集団から外れる初経験-なるようにしかならないだろうけど

 入学、就職、誰もが通る道である。そして、その道は、その人にとっては、全て初体験である。だから定年も初体験なのだ。
 だが、今までの初体験は、全て、ある集団に所属するという初体験であったが、定年は、集団から離脱するという初体験であるとことが異なる、という指摘は、今までの定年本にはない指摘であった。なるようにしかならないし、という消極的楽観論者である私が、なぜ定年を不安に思っていたのか、初めてわかった気がする。
 お金も心配だし、健康も心配だ。だが、一番心配なのは、今まで当然のこととして所属してきた集団に、所属しなくていいという初体験が不安なのである。そして、新しい集団への加入は、今までの入学、就職という社会上の仕組みでなく、自分で動かないと加入できない。何の集団にも所属していない自分を想像できないところが不安なのである。
 不安の元がわかっただけでも、この本を読んだかいがあった。まあ、なるようにしかならないか。

ターン:二人称の小説はちょっと読みにくい-実は、この二人称に意味がある

 著者の「時と人」シリーズの第2弾。冒頭から、二人称で小説は始まる。正直言って、ちょっと読みづらい。途中で放り出さずに読み進めることができたのは、著者の筆力のなせる力だろう。
そして、読み進めるにつれて、この二人称表現に意味があったことがわかる。それが、どういう意味なのかは、是非とも本書を読んで欲しい。
 小説の面白さとしては、第1弾のスキップの方が、はるかに上であると思うが・・・。

地下道の鳩:ジョン・ル・カレのファンなのだが英国の歴史を知らないのでよくわからないことが多い

 ジョン・ル・カレの回想録である。自叙伝ではない。いろんなエピソードが、順不同に出てくる。
 小説のモデルやストーリーのヒントがこんなところにあるのだ、というのは、読者にとって興味深い。ただ、私のように英国の歴史に不慣れな人間には、出てくる登場人物の名前からピンとこないことも多く、単なる日本人の読者としては、少し読むのがつらいところも多い。

ミレニアム2:前作よりも暴力的で謎が多い

 前作は一気の読んでしまった。本作も一気に読んでしまった。
 前作で出てきた登場人物が、本作でも重要な役割を果たす。
 前作では、謎解きが主で、途中から暴力的になってくる。本作は、最初から暴力的だ。
 ミステリといえども、暴力シーンの多い作品は、あまり好きではないのだが、本作は、登場人物の特異な人生に引きつけられて、読み進めてしまう。

 

審問:途中で放棄-これで検屍官シリーズを読むのをやめることにした

途中で面白くなくなっては、盛り返してくれた検屍官シリーズであったが、本作でも、やはり同じようなシチュエーションが続き、ちょっと飽きがきてしまった。シリーズは、まだまだ続いているので、面白い作品が残ってはいるのだろうが、シリーズとして読み続けるには、作者の好きなシチュエーションに合致しないといけないのだろうなあ、と思う。