バッタを倒しにアフリカへ:ポスドクの大活躍

 日本におけるポスドクの扱いは、本当にひどい。よほど、実家が豊かでない限り、博士課程に進むものではない。私も、自分の子供には修士で就職するように強く勧めた。
 この著者は、そういう未来が不明な状況に耐え、自分の好きな道を進んでいった。本書は、その青春記(というには、ポスドクは年をとりすぎだが)である。今は、無事就職できたようだが、今度は、出た釘は打たれるという、日本の風土に苦しむに違いない。持ち前の明るさで、突き進んでほしいと願う。

我々はなぜ我々だけなのか:人類進化学の最前線

 ネアンデルタール人とか北京原人とか。いわゆる、現在人の前に存在した人類たち。
 その人類進化学の最前線を、第一線の研究者のインタビューをもとに、科学ライターがわかりやすく解説した本。本当に面白くエキサイティングに読める。
 専門家と科学ライターの組み合わせによる本、という形式は、科学の最前線を解説するのに、最も適した方法かもしれない。今後もブルーバックスは頑張って欲しい。

国立科学博物館のひみつ 地球館探検編:国立科学博物館の魅力が伝わる本

 国内の博物館・美術館は、どちらかといえば、(私もその一人だが)特別展目当ての入場者が多い。ところが、国立科学博物館は、常設展の入場者の方が多いらしい。いろいろな工夫がなされた展示だからであろう。本書は、その魅力が伝わる本である。
 筆者の対談形式の本なのだが、メインは写真とその説明だ。対談は、それらの展示をどのような意図で作られているかを知るのに役立つ。本書を「見ると」、上野へ行きたくなってきた。

アマゾノミクス:著者の考え方に共鳴するにせよ、しないにせよ、今後の世界を考える良い本

 既に始まっているデータ社会について、その最先端で仕事をしてきたデータ・サイエンティストが著者。かなり、自由に、やってきたこと、今後来るであろうこと、その利点、欠点について書いた本である。
 最初の、amazonでできることに書かれた部分は、本当にびっくりである。ただ、だんだんとあきてくる。たぶん、著者の言う新しいプライバシーの考え方に共鳴できない部分が多いからだろう。若い世代なら共鳴できる人も多いと思う。考え方に共鳴するにせよ、しないにせよ、今後の世界を考える良い本だ。

地学のすすめ:地学で実際に解明している地球の姿を丁寧に解説

 題名だけ見ると、みんな地学を勉強しましょう、こんなに役に立ちますよ、というような本に思える。随所にそういうことが書いてはあるが、大半は、こんなことが解明されてきているという、地学による地球の姿を丁寧に解説している。
 地下深部の岩石の融解条件という、深さと温度によって、岩石が融解するかどうかが決まるというグラフを用いてマグマの噴出のメカニズムを説明する部分など、めから鱗である。
 一方で、地震に偏った我々の災害への関心を、実は火山の噴火の方が被害は大きい、と警鐘を鳴らす部分もある。特に中国と朝鮮の間にある白頭山の話は、ちょっと怖い。

理化学研究所:基礎研究の重要さがよくわかる

 こういう本は、やはり山根一眞でなければ書けない。基礎研究というわかりにくい分野を、うまく解説している。将来、応用が可能な分野については、その応用の先進性と広がりについて。そうでない分野は、その知の広がりについて。そして、スパコン「京」、スプリングエイトなどの最先端の説簿がどのように研究のブレークスルーに役立っているのか、バイオリソースセンターのような一見地味な(そして手間とお金のかかる)仕事が研究の基礎を確立しているのか。
 発明・発見だけがイノベーションではない。ビジネス観点で見ればそうであろう。でも、発明・発見こそがイノベーションの王道であり、それを支えているのが基礎研究である。

パーソナルコンピュータ博物史:昔のPCを見ることができて懐かしい-解説はちょっと淡泊

 APPLE、MZ-80、PC-8001、MSXなど有名どころのPCだけでなく、パソピアとかFM-8とか、今ではあまり語られることのないPCも含めて、昔のPCファンなら一度は見たことがあるであろうPCを多く紹介している。写真を見るだけで懐かしい。PC88系のフロッピードライブは2基横に並んでいたのに、PC98系は縦に並んでいたとか、この写真を見て、久しぶりに思い出した。PCだけでなく周辺機器も紹介されているのが、素晴らしい。解説は、客観的といえば客観的だが、少し淡泊。

古代世界の超技術:4つの石の文明の技術について楽しく読める

 著者は、古代文明についての専門家ではない。土木・建築の専門家でもない。でも、技術に愛着のある人である。そんな著者が、ピラミッド、古代ギリシャ、古代ローマ、メソアメリカ・アンデス文明を石の文明という観点で、古代技術の素晴らしさを解説した本だ。
 専門家の書いた本ではないので、その語る内容の正しさ、というのを云々するのは野暮というものであろう。石の文明について語るにあたって、石材職人に話を聞きに行くという現場重視の技術者らしい行動によって、一般の概説書にはない面白さが追加されている。やっぱり、実物を見たくなってきた。

「ものづくり」の科学史:ものづくりにおいて、標準という考え方がどのように 紆余曲折しながらも進展してきたのか

 副題は「世界を変えた≪標準革命≫」。ネジは、直径と長ささえあえば、メーカーを問わず使うことができる。この、当たり前のことができるためには、標準というものが必要である。たとえば、ネジについては、ISOで標準が決まっている。
 手工業の時代には、モノを構成する部品は、モノごとに違っていた。これを、たとえばネジという部品に互換性を持たせるというのは、そもそも発想から変換していく必要がある。まさに革命である。標準という考え方がどのように生まれてきたのが。そして、様々な反対にあいながら、紆余曲折しながらも、徐々に鵜世の中に普及していく過程を、具体的な事例で丁寧に追った力作である。