青春小説でもあり、プロフェッショナルの世界を垣間見る小説でもある。筆者は日本画家。その世界を、ここまで活写できる表現力に驚く。
カテゴリー: 小説
四神の旗:不比等の子供たちの物語
不比等を描いた比ぶ者なきの続編。藤原不比等なきあと、不比等の子供たち4人の物語。兄弟の1人1人の行動を丹念に追っていく。一方で、不比等の妻として不比等の右腕的役割を果たしてきた三千代は、藤原氏ではなく自分の子供と自分の氏族のために動く。
前作に比べると主人公が分散されてしまったため、少し緊迫感に欠けるが、逆に4人が主人公のため一直線でない紆余曲折の部分が面白い。
比ぶ者なき:なるほど、だから不比等か
ローマ亡き後の地中海世界:海賊の歴史
コンスタンティノーブルの陥落:塩野七生の若い頃の作品だが
雄気堂々:渋沢栄一が主人公
信長の原理:新しさをうまく出している
盲人重役:息苦しくなるくらい会社のために仕事
役員室午後三時:ワンマン経営者の孤独
大企業のワンマン経営者と、そのワンマン経営者を追いやり自分が社長になった部下の物語。会社のためを思いひたすら頑張るワンマン経営者。だが、その頑張りは時代に合わず取り残されていく。徐々に、会社のためという口実で自己保身的行動を取るようになり、結果的には、会社を追われる。
そのワンマン経営者の部下として、新しい時代の経営者として、自分の上司を追い出し、社長になる若い副主人公。2人の行動が経済小説として、緊張感のある小説になっている。当時の時代背景など知らなくても読める小説である。
城山三郎の小説の常として、この小説にもモデルがいる。カネボウである。新しい時代を切り開くこととなった副主人公だが、実際のモデルの人物は、長く会社に君臨し、あの粉飾決算の元凶を作ることになる。結果的には、自分が追い出したワンマン経営者よりも会社にダメージを与えることになる。皮肉なことだ。