四神の旗:不比等の子供たちの物語

 不比等を描いた比ぶ者なきの続編。藤原不比等なきあと、不比等の子供たち4人の物語。兄弟の1人1人の行動を丹念に追っていく。一方で、不比等の妻として不比等の右腕的役割を果たしてきた三千代は、藤原氏ではなく自分の子供と自分の氏族のために動く。
 前作に比べると主人公が分散されてしまったため、少し緊迫感に欠けるが、逆に4人が主人公のため一直線でない紆余曲折の部分が面白い。

コンスタンティノーブルの陥落:塩野七生の若い頃の作品だが

 若い頃はこんな感じの小説を書いていたんだ、と軽い驚きがあった。内容は、塩野七生に違いないのだが、視点が少し人よりである。歴史を書くというより、歴史の生き証人達の物語を書く、という感じだ。
 ローマ人の物語のような大作もいいが、こうした小説も捨てがたい魅力がある。今でも書店の棚に必ず置いてある作新のはずである。

雄気堂々:渋沢栄一が主人公

 10000円札になることが決まっている渋沢栄一を主人公にした代表的な小説である。さすがに、城山三郎だけあって、丹念に描かれている。でも、主人公の行動が、あまりにもめまぐるしいので、小説についていくだけで精一杯である。とんでもない人がいたものである。

信長の原理:新しさをうまく出している

 今さら、信長でもにだろう、と思ったのだが、ある書評で評判がよかったので、読んでみたら面白かった。信長が、2:6:2の法則を知っていたという設定で、いろんなできごとをうまく説明している。戦国時代の歴史小説の好きな人なら、誰もがよく知っている話を、この視点から描いていて、これが面白い。ただ、最初のうちは、珍しさもあって面白いのだが、だんだんと、無理すじの話になってきているようにも思う。前半は、圧倒的に面白い。

役員室午後三時:ワンマン経営者の孤独

 大企業のワンマン経営者と、そのワンマン経営者を追いやり自分が社長になった部下の物語。会社のためを思いひたすら頑張るワンマン経営者。だが、その頑張りは時代に合わず取り残されていく。徐々に、会社のためという口実で自己保身的行動を取るようになり、結果的には、会社を追われる。
 そのワンマン経営者の部下として、新しい時代の経営者として、自分の上司を追い出し、社長になる若い副主人公。2人の行動が経済小説として、緊張感のある小説になっている。当時の時代背景など知らなくても読める小説である。
 城山三郎の小説の常として、この小説にもモデルがいる。カネボウである。新しい時代を切り開くこととなった副主人公だが、実際のモデルの人物は、長く会社に君臨し、あの粉飾決算の元凶を作ることになる。結果的には、自分が追い出したワンマン経営者よりも会社にダメージを与えることになる。皮肉なことだ。

対岸の彼女:学生時代の人間関係

 女性が主人公で、女性特有の人間関係も書き込まれている。でも、男の私は、主人公と同じように人つきあいの苦手な子供だった。まったく目立たず、小学校時代はいじめの対象だったり、中学時代はいじられキャラだったり、昔の思い出は、いい思い出が少ない。
 でも、当時はあんなに重要だった友達も、学校を卒業すると全く疎遠になり、どうでもよくなってしまう。
 なんでなんだろう?そんなことを考えさせられる本であった。