火星の人:確かにベストSFと言うにふさわしい面白さ

 前に書いたSFが読みたい!で海外編のベストSFと紹介されていたのが本書である。
 題名からは、この本の内容は想像できない。火星に一人残された宇宙飛行士のサバイバルの物語、という概要だけでも読む気にはならなかっただろう。ベストSFということで、だまされたと思って読んでみたら、確かにベストSFというにふさわしい内容だった。
 科学の知識、生物学の知識が中途半端ではない。いろいろな困難を、科学知識とユニークな発想で切り抜けていく。SFらしいSFだ。

 

SFが読みたい!:手軽な読書ガイド

 学生時代、SFのファンであった。 SFマガジンも読んでいた。だが、社会人になってから20年近くなんとなくSFから遠ざかっていた。それがここ数年、再びSFを少しずつ読み始めている。
 かなりのブランクがあるので、そもそも何を読めばいいのかもわからない。そんな私にとってはこのSFが読みたい!は手軽な読書ガイドである。学生時代ほどは読まない。せいぜい読んでも、年20冊くらいだろうか。
 毎年この手軽な読書ガイド買って参考にすれば十分な量である。

 

楽園の泉:宇宙エレベーターの古典的SF

 NHK「サイエンスZERO」で、宇宙エレベーター建設構想を紹介されていたのを見て、急にこの本を読みたくなった。宇宙エレベーターを扱った古典的SFである。単行本が出たときに読んでいるので、たぶん30年前に読んだ作品である。
 クラークの作品の中では、あまり印象に残らなかった作品でもある。再読してみてその理由がわかった。宇宙エレベーター以外に、カーリダーサという架空のインドの話と、スターグラーダーという宇宙からの訪問船の話も含まれていているのである。特に後者は、メインストーリーとの関わりがあまりなく、少し唐突な感じがある。
 ただ、科学的知識に立脚したストーリーは、さすがにクラークである。

 

3001年終局への旅:クラークの未来小説

 映画でも小説でも有名な2001年宇宙の旅のシリーズ最終作である。だが、小説の内容は、あまり2001年宇宙の旅のシリーズらしくない。2001年宇宙の旅の宇宙船ディスカバリー号の船長代理フランク・プールが奇跡的に3001年に発見され蘇生する。基本ストーリーとしては、2001年宇宙の旅のシリーズの形態をとっている。だが、実際の物語は、21世紀の人間であるプールから見た31世紀の地球の様子を、クラークお得意の淡々とした記述で重ねていく。未来を描かせたらピカ一のクラークの作品だけあって、1997年刊行という作品でありながら、その未来像は説得力がある。私のようにサイバーパンクがあまり好きではないタイプの人間にとっては、安心して楽しめるSFである。

 

消滅の光輪:司政官シリーズの長編-既に権威のなくなった司政官がいかにして滅亡する惑星から住民を退避させるか

 前に書いた司政官シリーズの長編である。司政官シリーズの長編は、本書と引き潮のときとがある。本書はSFマガジンで連載され、私もちょうどその頃はSFマガジンを読んでいたので、よく覚えている。それまでは、司政官シリーズというのは全て中編小説だったので、本書中編小説かと思っていた。連載時、第1回は「前篇」、第2回は「中篇」だったので、第3回は「後篇」で完結するかと思っていたら、「後篇・その1」となって、延々と連載された。毎号SFマガジンを買うほどのSFファンではなかったが、この連載を読む必要性があるので、SFマガジンを毎月買っていたことを思い出す。
 本書は、太陽の新星化に伴い消滅する惑星から、住民をいかに救出するのか、という難題を課せられた司政官の物語である。この時代、既に司政官の権威は失われていた。そんな中で、司政官として、住民の生命のみならず、惑星移住後の生活も考えた上で、惑星丸ごとの移住計画を立案し、実行するという壮大なスケールの話である。
 本書の最初に、「アイザック・アシモフ氏へ」という献辞がある。これは、アシモフの宇宙気流で惑星から住民を退避させたというエピソードがあるが、本当にこれを実行するとなったらどうなるのだろう、ということに着眼点を得て書かれた小説だかららしい。
 既に権威のなくなった司政官制度の中で、司政官としてのあり方を模索しながら、苦闘する司政官の姿は、司政官シリーズの中でも最も印象的だ。

 

司政官:短編だけでなく解説もあり読みやすくなった

 日本SFの初期の頃から活躍した眉村卓の代表作である。
 司政官シリーズということで、短編だけでなく長編もある。司政官というのは、人類が宇宙に出て行って、惑星を植民地化している時代の話である。初期の時代は、軍隊が常駐していたが、植民政策が進展する中で、司政官というテクノクラートが惑星運営することになる。その初期の頃から、形骸化するまでの時代の中からピックアップして小説にするという壮大なシリーズものである。それを、統治機構からではなく、統治機構の末端に属して、惑星という現地に住み、統治機構と現地との間で悩む司政官の物語である。現在の会社にたとえれば、まだ市場参入したばかりの国の支店長として現地赴任した本社では部課長級でしかないサラリーマンのような立場とでもいえようか。こういう中間管理職を書かせたら、サラリーマン経験のある眉村卓の得意の分野である。
 この短編集は、従来の短編集とは異なり、いくつかの特長がある。
 まず、著者がこの本に向けたあとがきを収録している。これは眉村卓ファンにとってうれしい。私は、既に、ここに収録されている短編の本を別途持っていたのにもかかわらず、このあとがき読みたさに、本書を購入した。
 従来の短編集は、短編の発表順であったが、この本では司政官制度の年度順で収録されている。この順番で読むことで、シリーズの構成力のすばらしさが理解できる。
 司政官シリーズの世界観とロボット組織は意外に理解が難しいが、これに対する詳しくわかりやすい解説がついている、そのことにより、本短編集を初めて読む人にとって、すぐにこの世界へ没頭できる知識を簡単に得られる。この本で初めて司政官シリーズを知ることになる人たちにもお勧めである。

 

声の網:ネットワーク社会の怖さについて今でも通用する内容

 ショートショートで有名な星新一の数少ない長編小説である。ネットワークによって繋がったコンピューターが自律した行動をとるようになり、ついには神様のような存在になるという話である。古い小説なので、このネットワークによって繋がる手段はインターネットではなく電話網である。ただそれを除けば、今でもネットワーク社会が持つ怖さとでも言うべきものがあぶり出されている小説であると言える。私はこの本を40年くらい前に読んでいる。その時にはこの小説のリアリティーは理解できなかった。そもそも電話網にコンピューターが繋がるということが、まだ一般的には知られていない時代であった。今読んでみると、そこで描かれているコンピューターネットワークによるサービスであるとか、ネットワークが自律的に動くということがどういうことであるか、そうしたことがリアリティーを持って描かれている。 IBMは人工知能を事業にしようとしている。その動きがこの本で描かれている世界の先駆けでなければいいのだが。

 

ハーモニー:現在版のアンチユートピア小説

 虐殺器官で有名な著者のSF。一種のアンチユートピア小説である。この世界ではメデッケアという装置が個人個人の健康を管理し、それぞれにふさわしい薬物を提供してくれることによって、健康な生活ができるのである。だがその世界は逆に言えば息苦しい世界でもある。アンチユートピア小説の定番で、その息苦しさから逃れる主人公を中心に話は進む。
 他のブログでも書いたのだが、IoT技術が変な方向に行きすぎると、同じような世界が出現しないとも限らない。

 

虐殺器官: SFから少し離れていた私をSFにひき戻した本

 ゼロ年代最高のSFとしてあまりにも有名な本である。その有名さにふさわしい面白さを持った本でもある。昔SFを好んで読んでいた。ところがある時期から新しく発刊されるSFが私の好みから外れてくる時期があった。ちょうどその頃に、仕事が忙しくなり、その影響でSFを本当に読まなくなった時期があった。
 そんな時に、この本を見つけて本当にそんなに面白い本なのかという疑問を持ちながら読んだが本当に久しぶりに一気に読了することになってしまった。この本でSFの面白さに再び目覚めて最近は少しはSFを読むようになった。

 

銀河帝国を継ぐ者:良質のスペースオペラ

 本書の解説でも指摘されているように、この世界観で3部作くらい書けるくらいの圧倒的な世界観である。
 本書の裏表紙の紹介に出てくる、「プリンス」、「少年ケムリ」という言葉からは、ヤングアダルト向けの本のようだが、実際には、良質のスペースオペラに仕上がっている。
 ここまで圧倒的な世界観であると、その世界観に慣れるまでに時間がかかるのが通常なのだが、本書ではそこがスムーズにいく仕掛けになっている。そもそも主人公が、いきなり新しい世界へ飛び込むという設定である。主人公の指南役にベテランの「奉仕者」が仕えるということで、主人公がそのベテランに教えを乞う形で読者自身も新しい世界へ徐々に入り込んでいけるようになっている。
 一旦その世界の設定を理解したら、そのストーリーの素晴らしさに一気に読んでしまうことになる。まさに良質のスペースオペラである。ただ終盤の内容は、少しひねりが足らず、ものたりない。本当は続編を期待したいところなのだが、解説によれば筆者は続編を書く気がないという。