人生の諸問題 五十路越え:読者世代を選ぶ本-私にはジャストミート

 長く続く対談集の最後になるかもしれない本である。本人達は、まだ続けたいようだが。Amazonのレビューには、共感できないという感想が多く寄せられていた。確かにそうかもしれない。今までの対談集と異なり、昔話があまりにも多すぎるし、その内容も経験者しか共感できない内容も多いからだ。
 そういう話題が多くなっているといいうのは、2人が年を取ってしまったということでもある。五十路越えという副題は、そのあたりの事情をうまく表現している。
 だが、私のように、同じ年代の読者には、ジャストミートである。

超・老人の壁:バカ話が減ったのが残念

 前作(老人の壁)に続く待望の第2弾である。ちょっと、真面目な話が多く、2人の本音のバカ話が少なくなって、この部分は残念であろ。だが、2人の掛け合いは
、相変わらず素晴らしい。

老人の壁:養老孟司と南伸坊の雑談が面白くないはずはない

 最近、老人関係の本を立て続けに出している南伸坊と、80歳を超えてますます怖いものなしの養老孟司との老人対談。別に、ためになる話があるわけではないが、この2人の少し下の世代で、今まさに老人になろうという私にとって、先輩達の気軽な放談という感じで、楽しく読ませていただきました。

永遠の知的生活:尊敬する渡部昇一との対談

 渡部昇一の著書「知的生活の方法」は、私も大学時代に読んで、大きな影響を受けた本である。
 同じく、知的生活の方法に影響を受けたという一条真也との対談である。一条真也の本は読んだことがないが、渡部昇一を本当に尊敬していることがよくわかる。尊敬する人との礼儀正しい対談で、読後感もさわやかだ。

雪舟応援団:まず表紙が笑える

 このブログで何度も書いている日本美術応援団を最初とする山下裕二との対談集である。取り上げる題材は、今回は雪舟のみ。雪舟というのは、涙で描いた鼠の逸話でよく知られているというか、それ以外には知らない人である。
 赤瀬川原平にとっては、この雪舟の慧可断臂図が日本画に興味を持ったきっかけになったということで、かなり思い出深い画である。表紙に、対談者二人の顔をはめ込んだ慧可断臂図が笑える。本の装丁は例によって南伸坊である。
 さすがに、雪舟だけで対談をうめつくすというわけにもいかなかったようで、対談以外にも赤瀬川原平と山下裕二の文章が掲載されている。本の値段の割にページ数が少ないのだが、写真が多く掲載されている。その写真を見ながら、対談を読むということになる。
 でも、山水長巻を二人で見に行って、三時間も見ていたというのはびっくりだ。やはり、本当に美術が好きなのだろう。

 

実業美術館:工場や刑務所を美術として語る

 日本美術応援団以来の、赤瀬川原平と山下裕二による美術談義。修学旅行へ行ったり、社会見学に行ったりで、だんだんと美術の定義が広がり、今回の対談は、とうとう工場や刑務所までが範囲に入ってしまった。さすがに、これは範囲を広げすぎであろうとは思うが、2人の対談は面白い。
 この対談で行っている大和ミュージアムには、私も行ったことがあるのだが、ここまで詳細に見ていなかった。ごみ処理場の建物は確かにアートかもしれないとも思う。

 

藤原正彦、美子のぶらり歴史散歩:学識のある夫婦の散歩

 藤原正彦、美子夫妻はどちらも学識の深い人である。この夫婦が歴史を題材として散歩をする際の会話を本にしたものである。歴史といっても主として作家に関する話が多いのは、藤原夫婦の専門によるものであろう。いかにも夫婦らしい掛け合いだけではなく歴史に関する知識の深さを感じさせてくれる。
 私のような庶民の夫婦の会話ではこうはいかない。ただこの本を手にして1カ所でもいいから夫婦で散歩してみたいものだと思わせてくれる。

 

歴史の夜咄:司馬遼太郎と林家辰三郎による日本の歴史

 司馬遼太郎の魅力は、主力の歴史小説だけでなく、対談にもすばらしいものがある。ただ、対談というのは、その性質上、対談相手によって内容は変わる。そういう意味では、この対談の相手は歴史学者の林家辰三郎なので、その対談の内容は表面に流れることのない、丁々発止の対談になっている。それでいて、対談なので、素人の私が読んでも理解できる内容なのだ。歴史の深さと面白さを感じることのできる本である。
 さらに、この文庫本の解説者が、これも歴史小説で有名な陳舜臣で、この本の面白さをスバリ解説してくれる。

 

オトナの社会科見学:国会議事堂、長崎造船所資料館へも進出する日本美術応援団

 以前書いた、赤瀬川原平と山下裕二による日本美術応援団の第4弾である。美術館だけではあきたらず、国会議事堂や長崎造船所資料館へも進出して、そこで美術する。美術というのは、美術館や博物館で鑑賞するだけのものではない、ということがよくわかる。東大総合研究博物館では、貝の展覧会で、その展示のデザイン性に感心したりしている。
 さすがに、ここまで範囲が広がると、日本美術応援団というよりは、確かに社会科見学である。しかし、これも前に書いたオトナの修学旅行でも思ったのだが、修学旅行とか社会科見学というのは、オトナになってから見る方がよく見えるものもあるのだろう。

 

日本美術応援団:赤瀬川原平と山下裕二の記念すべき第1弾

 前にも、この2人の対談集を取り上げたことがある。本書は、そうした数多い赤瀬川原平と山下裕二との対談集の記念すべき第1弾である。この2人は、年齢も20才ほど離れ、この対談で初対面だったらしいが、その対談の掛け合いの面白さは、最初からであることがわかる。よほど、馬が合うのであろう。
 しかも、内容は、日本美術応援団という題名通り、日本美術を題材に、その感想を語りあうのだが、既成概念にとらわれず、素直に自分の感想を語りかける赤瀬川原平の話に応じて、アカデミックに属するはずの山下裕二も、そんな発言していいのだろうか、というような素直な発言をしている。美術というのは、こう見るべきということはなく、素直に見たままの感想でいいのだ、ということ。そこに、少し知識が追加されると、より面白いのだということが、わかる本である。