カルタゴの運命:ちょっと長すぎるかな

 眉村卓は、司政官シリーズの大ファンである。何度も再読しっている。
 本作は、その眉村卓の長編SFということで、前から読みたかったのだが、あまりにも大作なので、読むのを躊躇していた。
 読み出したら、さすがに眉村卓で、うまい。だが、塩野七生のローマ人の物語を読んでいると、大きな事件は全て知っているので、ハンニバルに関して知識がないであろう日本人を対象とした記述は、私にはちょっと長すぎた。

彷徨える艦隊11:第2シーズンの完結

 冷凍睡眠から甦った士官が、長い戦争の中で戦術を忘れてしまっていた艦隊の指揮をとって、勝利に導く、というありがちな設定でありながら、圧倒的な戦術記述により、面白い小説にしてきた本シリーズ。
 第2シーズンは、異星人がたくさん出現し、どう収拾するのだろう、と思っていたら、収拾せずに完結してしまった。しかも、原作の方は、この後の展開ではなく、第1シーズンの前を描くという。何だかなあ。原作者も収拾できなくなって放棄してしまったのではないだろうか。

彷徨える艦隊7:第2部の開幕

 シリーズの第2部の開幕である。前の敵は、人類であった。考え方も違うが、それでも、コミュニケーションが可能であった。今度の敵は、異星人である。どんな種族なのか、さっぱりわからないという状態で、敵陣に乗り込むことになる。
 前のシーズンでは、主人公が、仲間の信頼を得るまでの、主人公と仲間の葛藤を中心に話が進んできた。第2部では、主人公は、仲間の圧倒的信頼を得ている。だが、敵が全く見えないという状態である。同じ登場人物たちなのだが、異なる状況で、また物語が楽しめそうである。ただ、会話文の翻訳が、少し直訳すぎて、どこか臨場感にかけるのが、このシリーズの欠点なのだが、ストーリーの面白さが、この欠点をカバーしている。

叛逆航路:英米のSF関連賞7冠

 英米のSF関連賞7冠という宣伝文句に惹かれて読んだ。正直なところ、そこまでの作品だろうか?というのが感想である。しかし、面白いSFには違いない。リエンテスや市民といったローマ帝国を彷彿とさせる世界。死人を宇宙船の属躰として活用している。その属躰は、船そのものである。ところが、ある事件で、その属躰が個人になってしまう、という背景で、小説は進む。
 船に属する複数の属躰が全てその船であるというところから生じる、ある出来事を複数のシーンで描写するところなど、わかりにくくなるような状況をも、筆者の筆力でうまく描写する。その筆力は、素晴らしい。
 3部作の第1作ということで、何となくすっきりしない結末であるが、次の作品を読みたくなる作品であることも確かだ。

大尉の盟約:マイルズではなくイワンが活躍する

 前にも感想を書いたシリーズ。今回の主人公は、いつものマイルズではなくイワン。いつもマイルズが主人公の時には、ちょっと間抜けな役割を演じているが、今回はイワンが大活躍である。複雑な陰謀をあばくことはできなくても、その時、との時で、誠実な判断をすることで、うまくおさまる。マイルズのように、ことをややこしくすることはない。素直に、ストーリーにのめりこめる。

外交特例:またもやマイルズの外交センスと推理がさえる

 前にも感想を書いたシリーズの、おなじみの、マイルズが主人公のSF小説。犯人と微妙な外交交渉の面白さがミックスされた、いかにもマイルズものらしいSF。相変わらず、一気に読ませてくれる。

 

1984年:面白く、そして怖い小説

 本書が、1948年に出版され、その最後の2桁の数字をひっくり返して1984年という題名で発表したことは有名な話だ。実際に、1984年が来た時には、非常に話題になっていたことを、今でも覚えている(真理省が介在しないからね。。。)。
 体制に疑問を持ち、そして最後には屈服してしまうこの小説は、本当に恐ろしい。読みにくいとことも多いが、小説としての面白さもある。本書と、本書の作者の別の著作「動物農園」とは全体主義・独裁主義の怖さを小説という形で教えてくれる。

すばらしい新世界:古典だけど、ちょっと読みずらい

 アンチユートピアものとして、1984と並び称される古典である。人間がアルファから順に階級化された世界の描写は、アンチユートピアそのものだ。ただ、小説として面白いかというと、少し微妙だ。私は、途中から、かなりだれてしまった、

ロックイン:何だが暗い話しになるのかと思ったらうまく設定を活かしたSFミステリーになっている

 意識はあるのに体をまるで動かせない「ロックイン」状態の患者は脳にニューラルネットワークを埋め込み、ロボティクス技術と専用オンライン空間の利用しているというのがこのSFの設定。そこで起こった殺人事件。なんだか、暗い話しになりそうなのだが、そうはならないのが、作者の腕である。
 この設定と、主人公が金持ちであるということをうまく活用して、活劇もあるSFミステリーに仕上げている。

アンダーグラウンドマーケット:仮想通貨って、こういうものだったんだ・・・

 この小説を読んで、仮想通貨というものを、技術面ではなく生活面でとらえることができた。といっても、仮想通貨は、あくま、この小説の舞台装置にすぎないので、面白い小説を読んだら、仮想通貨のことまでわかりました、ということなのだが。
 例によって、テンポのいい展開、個性的な登場人物、的確なIT技術描写で、一気に読める作品である。