タイム・パトロール:古典的名作

 タイムマシンによる歴史改変を防ぐために活躍するタイム・パトロールものの古典。長編というよりは、中編集である。それぞれの、結末が、少しコミカルだったり、ほろ苦かったりで、読後に余韻が楽しめる。

夜明けのロボット:ジスカルドの登場

 鋼鉄都市、はだかの太陽に続くベイリ刑事が主人公のSF推理小説の3作目にして最後の作品である。この作品が興味深いのは、作者の銀河帝国シリーズとのつなぎで大きな役割を果たすロボットであるジスカルドが登場することである。
 この本単体でも読めるし、ジスカルド登場の作品としても読める。

トリフィド時代:副題の「食人植物の恐怖」はミスリード

 SFの古典的名作だ。副題に、食人植物の恐怖とある。確かに、トリフィドという題名は、食人植物の名前である。だが、この小説が、食人植物に追われるだけの話かというと、ちょっと本作を矮小化した副題だ。
 ある夜のできごとで、世界の人間の大半が、失明してしまう。そんな世界の中で、数少ない目の見える人々が、自分達の価値観、行動で生き残りを模索する。その人達の葛藤と対立こそが、この小説の本筋である。この小説のすばらしいのは、そんな失明だけでなく、追い打ちをかけるように、今まで管理されてきたトリフィドが、無管理状態になって、人々に襲い掛かるという設定である。このままいくと、人間社会は滅び、地球はトリフィドに支配された世界になってしまう。これを、食人植物の恐怖と表現するのは、どうなんだろう?
 英国のSFなので、パニック小説ではなく、話はたんたんと進む。この進み方がなんともいえない味なのだ。

ユービック:ディックにしか書けないSF

 何という不思議なSFだろう。ディックのSFらしく、最初は、小説の世界を理解するのに時間がかかる。テレパスや予知能力者と、その能力を不活性化する能力を持つ不活性者が存在し、不活性者を派遣する会社が存在する。未来社会は、身近なドア、テレビ、冷蔵庫などは、使う都度、料金が必要となっている。
 そんな社会で、事件が起こり、その事件も、時間が逆行するという事件で・・・。
 次々とディックの世界についていかなければならない。でも、その努力に見合う面白さだ。

幼年期の終わり:クラークの最高傑作

 ミニシリーズでTVドラマ化され、子供たちの姿が印象的であった。
 その番組を見て、久しぶりに再読した。クラークの数多い作品の中でも最高傑作であろう。これ以外に、何も言うことはない。

海底牧場:珍しい海洋SF

 クジラを放牧する海底牧場を舞台としたSF。魚資源の枯渇が心配される中、海の中での放牧というのは、現実の世界でも考えるべき内容のように思える。
 小説としては、クラークらしく淡々と進む。SFとしては、物足りない部分もあるが、海底牧場という設定だけで読ませてくれる。

はだかの太陽:謎解きと社会描写とがうまくマッチング

 前に感想を書いた鋼鉄都市の続編。今度の舞台は地球ではなく、惑星ソラリア。高度に発達したロボット社会で、人は家族単位ではなく、個人単位で生活している。映像によるコンタクト手段が発達しているため、人と人とが実際に会うことはほとんどなく、そのため実際に人と会うことが忌避されているという世界だ。この世界で、殺人事件が発生する。ソラリアには警察機関がないため、主人公が呼ばれ、捜査を開始する。
 ロボット3原則をベースにしたSFミステリなのだが、謎解きとソラリアの社会描写とがうまくマッチングしていて、心地よく小説の世界に浸れる。

宇宙気流:アシモフお得意のミステリじたてのSF

 古いSFである。一部の貴族が貴重な資源を独占するために原住民に対し圧政を強いている。そんな背景の中で、この構造をゆるがすような話が進行する。
 私が初めて本書を読んだ高校生時代には、主人公が図書館で本を探すと、なぜか借りられない。それが、二度続いて、何かおかしいと逃げ出す、というエピソードに続く逃亡劇をひやひやしながら読んだことを思い出す。今回、再読しても、その面白さは色あせない。
 眉村卓が、この作品が、自作の「消滅の光輪」の発想のヒントとなった、と語っている。「消滅の光輪」を読んだ後で、本書を読み返すと、なるほどなあ、と思う。

鋼鉄都市:ロボットのダニールが初登場した本

 かつて、アシモフのSFには、2つの系統があった。ロボット3原則で名高いロボットものと、銀河帝国シリーズとである。後に、この2つは、統合されることになる。その中心になるのがロボットのダニールである。
 このダニールが初登場するのが、本書だ。読むのは3度目になるのだが、再読に耐えるSFミステリーである。それは、誰が犯人なのかという謎解きだけでなく、人間とロボットの関係、地球と宇宙との関係、限られた資源の中での地球の生活など、細部にわたって作られた物語の設定に入り込めるというところにあるのだろう。

火星年代記:ブラッドベリの名作-オムニバスは好きではないのだが独特の味で読了

 ブラッドベリの古典SFである。火星に火星人がいて、そこへ地球人がやってきて、というお話である。舞台が火星で、登場人物がかわりながら、火星での物語が継続するというオムニバス形式の小説である。
 私は、オムニバスという形式はあまり好きではない。昔、読んだときは、途中で挫折した。でも、この小説には、独特の味があり、なんとなくひきつけられながら、今度は読了してしまった。現代文明に対する批判もたっぷりなのだが、そんなことよりも、小説としての味が抜群なのである。