時間の習俗:トリックものは再読に耐えない

 点と線の刑事が再び事件に関わるという松本清張には珍しいパターン。トリックの内容そのものは、こちらの方が多彩で、緻密だ。でも、逆に、その中心であるカメラが、フォルムからデジタルに変わる中で、ピンとこないものになってしまっている。トリックに傾きすぎた分、登場人物の描写が平坦になってしまって、再読に耐えない。40年ほど前に、本作を読んだ時には、点と線よりも面白かった記憶があるのだが。

用心棒:シリーズのイントロなんだろうか?

 この著者は、二流小説家という変わったミステリーで、いろんな賞をとった。風変わりな作品で、印象に残っていたので、本書も読んでみた。正直なところ、密度が低い。あっさり読めるし、面白いといえば面白いのだが。続編を執筆中ということで、シリーズもののイントロというところか、と納得した。

スパイたちの遺産:読み終えるのが惜しい作品

 名作「寒い国から帰ってきたスパイ」の続編という紹介だが、実際には、同じストーリーを違う視点で描かれた作品というべきだろう。寒い国から帰ってきたスパイは、当事者の視点から描かれた作品である。本書は、その作戦を仕掛けた側から描かれた作品だ。
 ル・カレのスパイ小説でおなじみのピーター・ギラムの引退後に、寒い国から帰ってきたスパイでの作戦が究明されることになる。既に世代交代してしまい当時の状況すらわからない若い世代にピーター・ギラムが尋問される。尋問の会話、記録文書、ピーター・ギラムの回想シーンという地味な内容なのだが、なぜか緊迫感があるのだ。さすがにル・カレだ。1931年生まれということだから、この作品が発表されたのは86歳ということになる。本書は、ル・カレからの遺産かもしれない。

フロスト始末:これでシリーズ最後か・・・

 第1作「クリスマスのフロスト」は、衝撃的であった。こんな下品なジョークをいい、推理というよりは動き回ることで偶然から事件を解決するという、さえない主人公。でも、これが面白い。以来、欠かさず読んできた。
 そして、本作で、著者の死により、とうとうシリーズ最終作になってしまった。下品なジョークは、慣れてしまった。推理というよりは直観だけで動き回る無駄な捜査にも慣れてきた。
 でも、要領で偉くなっていく主任警部や警視たちよりも、現場をはいずりまわる主人公が魅力的であるのは確かである。今回は、亡き妻との回想シーンが多く、ちょっと下品さに欠けるのが残念だが、とんでもない行動に出るのは、相変わらずだ。

アガサ・クリスティー完全攻略:有名作品しか読んでいない私には非常に参考になった

 ポアロものは半分ほど、それ以外にそして誰もいなくなったなどの有名作品を読んでいる程度の私には、非常に参考になった。こんなに、面白い作品がまだあったとは。自分の読書予定に、数冊加えることができた。
 最大の問題は、アガサ・クリスティーはミステリーでありながら、再読に耐える作品が多いことだ。今回、本書を読んで、既読の作品の魅力を再発見し、再読したい作品が、上記読書予定以上に増えたことである。またまた、読書に時間がとられてしまう。

ファインダーズ・キーパーズ:前半がすこし退屈(前作に比べて、だが)

 前作と同様、犯人は最初からわかっていて、その犯人と被害者の話が出てきて、その悲劇をどう食い止めるか、というパターン。前作の、このパターンがあまりにもスリリングであったため、本作はそれに比べて、あまり緊迫感がなく前半が過ぎてしまう。下巻の方は、面白くなるので、さすがなのだが。

ミレニアム3:3部作の最高傑作

 も傑作であった。でも、本作は、その中でも最高傑作である。
 リスベットに関する公安警察の陰謀を、ミカエルをはじめとする狂卓の騎士たちが打ち破る、というストーリーだ。
 でも、公安警察のような権力に対し、人権を真じる人々が結束するというストーリーを書ける国がうらやましい。日本では、こういうストーリーは現実ばなれしているというように、一刀両断の評価になるのではないか。