アルゴリズム革命の衝撃:よくまっていて参考になるが、少し物足りない

 クラウドを中心としたシリコンバレー発の技術やビジネスの動向がよくまとまっている。間にエッセイとしてはさまれているシリコンバレー事情も面白い。特に、日本企業のシリコンバレー駐在の事情などは、なるほどと思える。
 ただ、題名の「革命」については、書かれていない。何が革命なのかは、よくわからないまま本は終わってしまう。この部分は、少し物足りない。

記憶力を強くする:副題の「最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方」の方法はあまり記述されていないが

 全8章の中で、記憶のしくみが5章、鍛え方は2章、脳科学に関するエッセイ的な結論が1章という構成である。その中で、しくみに関する記述が、本当にわかりやすい。ミクロなしくみと、それを用いて脳がどのように動くのかというマクロな面をわかりやすく解説してくれている。

世界を動かす技術思考 要素からシステムへ:例の紹介に留まっている

 システム思考が重要だ。その主張には100%賛成する。今や、個々のブレークスルーは、あまり期待できない。今ある要素を用いて、いかに効率的に運用するか、ということが、今後重要になる。
 その科学思考を紹介する本かと思ったら、そうではなく、システムとは何かという例を紹介している本だった。ちょっと、題名と内容が期待外れである。例については、読み物としては、面白い。

すごい家電:確かにすごい、特に炊飯器

 家電ごとに、その技術を紹介。ハイテク機器に比べ、技術がクローズアップされることのない家電機器だが、実はいかにすごい技術が駆使されているかがよくわかる。特に炊飯器にかける日本の技術者の情熱は素晴らしい。
 パナソニックに取材して作ったということで、内容がパナソニックびいきになってしまっているのが少し残念。まあ、総合家電メーカーは、日本にほとんど残っていないのでしかたないが。

理不尽な進化:遺伝子と運のあいだとう副題がぴったりー少し退屈

 進化論に関して、一般に恣意的に使われてしまっている使われ方と、科学者の間での議論の違いなどから、進化論に関するものの見方を語る本。ただ、この語りが、長く、かつ行ったり来たりするので、少し退屈になる。最初の5分の1くらいまでは、さくさく読めるし面白いが、その後を読み進めるのは、少しつらいかもしれない。

メガ! :巨大技術の現場へ、ゴー:こんな現場を見られてうらやましいー残念なことに見学感想文になってしまっている

 ヒッグス粒子で一躍有名になったCERNを筆頭に、取材ならこんな所まで見学できるのか、とうらやましくなるような場所に足を運んでいる。カラー写真もきれいた。
 でも、今一つ、現場のすごさ感が伝わってこない。写真などなくても、現場のすごさが伝わってくる山根一眞のメタルカラーの時代のような読後感がない。結局は、見学感想文になってしまっている、ということなのだろうか。題材は素晴らしいのに、料理によって、かなり読後感が異なることを実感した。

 

暗号解読:具体的な解読方法まできっちりわかる本

 著者のサイモン・シンは、フェルマーの最終定理で、数学の内容をうまく説明した本を書いた著者である。さすがの内容に仕上がっている。
 エニグマ暗号に関しては、いろいろな本で扱われてきたが、この本のように、どのような仕組みの暗号で、どのように解読されたかをきっちり説明した本に初めて出会った。
 線文字Bの解読は、若い頃、線文字Aは解読されていないが、線文字Bは解読されている、という話を何かの本で読んだが、なぜなのかは、その本には書いていなかった。本書で、初めて、そういうことだったのか、ということを知った。

細胞の中の分子生物学:ちょっと難しいが遺伝子、ゲノム、DNA、タンパク質、細胞、細胞内小器官へのつながりがよく理解できる

 ブルーバックスの中では、少し難しい部類に入る本だが、遺伝子、ゲノム、DNA、タンパク質、細胞、細胞内小器官と順に説明されていて、生物がどのように構成されているかを構造的に理解できる。難しい話は、全てコラムになっていて、その部分は理解できなくても次へ読み進むことができるのも、親切である。本の構成も構造的である。

脳・心・人工知能 数理で脳を解き明かす :数理で「解き明かす」ということ は、こういうことだったんだ

 数理という言葉が題名にあるだけあって、正直言って、難しい本である。でも、「解き明かす」ということが、こういうことだったんだ、という面白さを教えてくれる。特に、「数理で脳を紐解く」という章の、脳の中ではパターンを重ね合わせで蓄えていて、外界の刺激からその重ね合わせのパターンを大抵は的確に、でも時々間違って想起してしまうという現象を、簡単な数式で示す部分は、本当に感心してしまった。
 コンピュータパワーにまかせて問題を解く、ということも重要だが、こういう数学モデルで現象を理解するということも重要なのだということが、よくわかる。

死ぬまでに学びたい5つの物理学:相対性理論の解説と創発のモデルの解説が秀逸

 物理学の歴史については、いくつかの本を読んできた。ただ、そうした本は、どうしても物理学者の伝記の寄せ集めのような内容になってしまいがちである。本書は、そうでなく、物理学そのものの内容を理解してもらうこと目標としているという著者のまえがき通り、物理学者の伝記的部分だけでなく、内容の解説もおもしろい。特に、数式を使った相対性理論の説明は秀逸である。光の速度が不変である、ということから、どういう観察結果が導かれるのかが、中学レベルの数学で理解できるようになっている。
 もう一つ、本書を特徴付けているのは、パラダイム変換ともいうべき、こうした発見が、どのように生じたのかという創発のモデルを丁寧に解説しているところである。著者の説明によって、それぞれの発見がどのように位置づけられるのかがよくわかる。
 といいながら、私が最も印象に残ったのは、それぞれの物理学者の人生である。どのようにすばらしい業績を残しても。個人の幸福とは別の次元なのだという現実も、また心に残るのだ。