死者にかかってきた電話:スマイリーが登場する第1作だがちょっと物足りない

 著者のジョン・ル・カレは、スパイ小説の第一人者だ。その著作の中でも、主人公として登場したり、かげで登場したりするのがスマイリーである。本作は、著者の処女作であり、かつスマイリーが主人公である作品である。ただ、後の作品に比べ、少し説明的過ぎる文章、緊張感が伝わらないなど、ちょっと物足りないが、スマイリーのファンには必読だろう。

世界の終わりの七日間:地上最後の刑事3部作の最終巻

 地上最後の刑事カウントダウンシティに続く3部作の最終巻である。いよいよ、地球最後の日まで後7日に迫り、主人公は最後に妹のニコに会うためにニコ捜索に出発する。一応は、この捜索の旅がメインストーリーなのだが、実際には、その旅の中で出会う人々との交流が主眼の物語になっている。あと、七日間という中で、人々がどう暮らしているか。様々な人々を描くために、作者は再び、主人公を捜索の旅に出すのである。
 老婦人、アーミッシュの人々など、それぞれの生き方が、読後の余韻になるような物語だ。

 

カウントダウン・シティ:「地上最後の刑事」の続編-今度は77日前

 前に感想を書いた「地上最後の刑事」の続編である。今回は、地球滅亡まであと77日と迫っている。主人公は既に刑事ではなくなり、社会も崩壊寸前である。そんな中、昔ベビーシッターをしてくれていた女性から、夫の行方不明の捜索を頼まれる。
 前作ほどのインパクトはないが、移動手段が自転車しかなくなった社会で、なんとか依頼を達成せいようとする主人公の行動は、読ませるものがある。

 

インフェルノ:他のラングトンものと同じパターンだが一気に読める

 ダン・ブラウンのラングトンものの第4弾である。謎の組織と、ラングトンと、どちらが先に、隠されたモノを見つけるか、というパターンは、他の3作と全く同じである。また、同じパターンか、と思ってしまいながらも、一気に読める。

 

地上最後の刑事:SF的な設定だがSFではなくミステリ小説

 半年後、小惑星が地球に衝突し、人類は滅びる。そんな背景の中、周囲が自殺だと思われた事件を、1人の刑事が他殺だと判断し、捜査を始める。
 この設定だけで、思わず読みたくなる。設定はSF的だが、設定以外にSF的要素は一切なく、良質のミステリとして読める。

 

ロセアンナ:刑事マルティン・ベックの第1作の新しい翻訳

 刑事マルティン・ベックシリーズは、スウェーデンの作家による刑事物である。以前出ていた翻訳は、英語版からの翻訳だったが、これはスウェーデン語からの翻訳ということであり、全10作が順次、翻訳されるらしい。
 本作品は、その第1作なのだが、原作はなんと1965年の作品である。もちろん、アガサクリスティの作品のように、作品そのものは古くても、内容が古くならない作品もある。しかし、名探偵モノとは異なり、刑事物ははやりどうしても、時代の影響を受けてしまう。さすがに、1965年というのは古すぎる。

 

その女アレックス:いろんなランキングで1位というには・・・

 ミステリ小説の中で、いろいろなランキングで1位だったので、なんとなく自分には合わないと思っていた本だが、思い切って読んでみた。
 ある程度は楽しめたが、やはり自分の好みではなかった。少しストーリーが強引なのだ。Amazonのレビューでも指摘されているように、アレックスの正体を隠すために無理をしているのである。

 

神津恭介の復活:なつかしい名探偵

 神津恭介というのは、高木彬光の推理小説に出てくる名探偵である。高木彬光は、私が最初に読んだ大人向けの推理小説の作家なので、少し思い入れがある。実は、神津恭介は、高木彬光の作品の中でもあまり好きな主人公ではないが、久しぶりに本で見つけたので、思わず読んでしまった。過去にファンだった人には懐かしいと思うが、読んだことのない人が、今さら買って読む価値があるかは難しい。

 

The 500:一気に読んでしまえる面白さ

 裏工作によってワシントンD.C.を仕切っているロビイスト会社に勤めることになった主人公の物語。
 主人公は詐欺師の父親の血を引いて、犯罪行為のスキルも持ちあわせている。そうした犯罪の世界から足を洗うために、苦学してハーバード大学のロースクールに通って、この会社に勤めることになる。その時点では、この会社がそうした裏工作をしている会社であったとは知らない。
 しかし最初の大きな仕事をする時点で、この事実を知ることになる。そうした裏工作に従事する中で、元々持ち合わせていた犯罪行為のスキルを生かしながら、その会社の中で大きな地位をしみるようになっていく。これが前半である。
 ところがその中で、自分が会社のスケープゴートになりかねないということを感知し、そこから逃げ出すために必死の工作をして行く。これが後半である。
 前半と後半とではかなり異なった内容の小説になっている。だが前半のストーリーで、主人公の人生に共感することによって、後半の少し無理があるストーリーを一気に読ませてくれる。解説によると、映画会社が映画化権を取得したということであるが、それも納得である。

 

高い窓:探偵フィリップ・マーロウの長編の3作目

 探偵フィリップ・マーロウといえば、レイモンド・チャンドラーが創造した有名な探偵である。「高い窓」はその長編の3作目である。「大いなる眠り」「さらば愛しき女よ」「かわいい女」「長いお別れ」「プレイバック」といった作品(そうそうたる作品が並ぶことに驚かされる)に比べるとそれほど有名な作品ではない。
 実際に、読後感も他の有名な作品に比べると少し物足りない部分がある。フィリップ・マーロウものの特徴の1つは、登場人物とフィリップ・マーロウとの関わり合いの面白さである。本作品はその部分が少し物足りないのである。