新物理の散歩道第1集:古典的な物理学で現象を解明する

 日経サイエンスが好きで、毎月読んでいる。だが、正直、素粒子理論などの最新物理学は難しすぎてよくわからないし、そもそも自分の日常とあまりにも違いすぎて興味を持てないことも多い。
 この物理の散歩道は、今はなき科学雑誌「自然」に連載されていた記事を単行本化したものをさらに文庫本化した本である。最も古い記事の初出が1961年というから本当に古い内容である。物理学を題材にしている本で、こんなに古いものは価値がないかというとそうではない。素粒子理論などの最新物理学を扱っているわけではないからである。基本的には、我々の見える世界、ニュートン力学(古典物理学)が扱う範囲の物理学を扱っている。こういう話題を扱っている記事は、実は最近あまりなく、貴重な内容である。こうした事情を端的に表現した内容が、解説にあったので、少し長いが引用してみる。

 日本の大学では、ロゲルギスト(この本の筆者の名前)の世代までは古典物理学を維持してきた。それが最近では-少なくとも理学部においては-雪崩を打って量子に傾いている。ほとんど古典物理学の痕跡はなくなってしまっただろう。これは由々しきことではあるまいか?
 というのは、実験の方面では、最終的には人が関わる以上、古典物理的な要素は欠かせないからである。工学と人の関わりは言うまでもなく、その基礎として古典物理学は重要である。「なくなった」というのは、だから光学とか流体力学とかいった古典物理学を専門とする部門がなくなったということだ。古典物理学が研究しつくされて問題がなくなったということではない。

 大学というのは、論文にならない研究はできないところである。でも、世の中には、論文にならない問題が多く残っている。この本が、いつまでも読めるということは、逆にいえばこうした題材を扱える研究者がいなくなったということに他ならない。まあ、工学系の先生に残っていればいいのかもしれないが。