想いの軌跡:塩野七生の今まで本に入っていない文章を集めた本

 この本は、1975年~2012年という長い期間に、塩野七生が発表した文章ではあるが、今まで本に入っていない文章を集めた本である。だが、「読者に」という前書きにあるように、依頼に応じてどこにでも書くというタイプの著者ではないので、1つ1つの文章はそれなりに面白い。書かれている文章は、分野が多岐に渡るので、全てが面白いわけではないが、こういう本は、別に全てを通して読むべき本でもなく、題名を見て面白そうなものを読めばいい。
 さすがに塩野七生である。こんなに長い間に書かれた文章であるのに、時事を扱った話題でなければ、いつ書いた文章なのか判別がつかない。どれもが骨太の塩野七生なのである。へ~と思った箇所を1つだけ引用してみる。

 私の考えでは、国家ないし民族は、大別すれば二種に分類できるのではないかと思う。
 第一種は、あらゆる手はつくしたにかかわらず、衰退を免れることはできなかった国家。俗に言えば、天寿をまっとうしたと言える国家である。古代のローマ、中世のヴェネツィアは、私の考えではこの種に属す。
 第二種は、持てる力を活用しきれなかったがゆえに衰退してしまった国家だから、天寿をまっとうしたとは言えない夭折組に属す。その典型は、古代ギリシアのアテネと中世のフィレンツェだろう。

 こういったさまざまな視点がイタリア文明のみならず人物や映画など様々な分野に対して書かれている。驚くほど多彩な内容の本である。