シグナル&ノイズ:実例が多く読み物として楽しめる

 ビッグデータと言っても、シグナルとノイズを峻別できなければ、何の役にも立たない。そのことが多くの実例で説明されている。難しい話しは出てこない。読み物として楽しめる。
 そrでいて、データの中から、シグナルを読み取ることの難しさがよくわかる。

 

フォークの歯はなぜ四本になったか:題名は魅力的なのだが・・・

 フォークの歯は、昔から今のように4本であったわけではない。最初に登場してから、いろいろな変遷を経て今のような形になったのである。フォーク以外にもクリップとか大工道具とか、身近なモノが、どのようにして今の形になったのかを紹介する。
 技術者にとっては、魅力的な題名であり、魅力的な内容である。ただ、読み通すには少し時間がかかる。どうも私の期待する内容とはずれていたようだ。翻訳も少し堅い。
 ただ、類書がないのは確かであり、こうした身近なモノの開発物語もほとんどないので、貴重な本だと思う。

ファミコンとその時代:PONGからファミコンまでの歴史

 ファミコンとその時代という題名は、少し大げさな題名である。もちろん、今のテレビゲームという市場におけるファミコンの果たした役割を考えると、ファミコンとはなんであったのかを今の時点でまとめることは意義があるのだと思う。
 ファミコン以前のテレビゲームとして有名なPONGから、アタリショックという米国でのファミコン以前の歴史をふまえて、日本においてゲームウォッチを経てファミコンが登場した経緯と、その成長を、開発を担当した当事者の証言をふまえ、まとめられている。ファミコンの設計段階において、開発者が何にこだわり、何を妥協したか、など当事者がいなければ書けない内容が満載である。

完全なる証明:ポアンカレ予想を証明したペレルマンとその時代

 数学における難問の1つであるポアンカレ予想は、2002年にロシアの数学者ペレルマンによって証明された。ポアンカレ予想と、ペレルマンの業績に関する本は、いろいろと出版されている。ハイビジョン特集 数学者はキノコ狩りの夢を見る ~ポアンカレ予想・100年の格闘~でも特集されていて、私も見た記憶がある。
 だが、そのペレルマンを育てたソ連時代の数学教育から紹介されている本は少ない。スターリン時代を切り抜けて数学という学問と、青少年の数学エリート教育を守ってきた旧ソ連の数学者達の努力、ライバル関係にあってもペレルマンの証明について正しさを裏付ける努力をしてきた数学者達。数学という1人でやることの多そうな学問でも、組織や人の関わる部分の多さに驚かされる。

鈴木さんにも分かるネットの未来:扇動的でない冷静なネットの未来

 ネットに関する本は、大きく分けて3種類ある。ネットがビジネスに及ぼす未来を扇動的にあおりたてて乗り遅れるな風の内容の本。ネットの否定的な部分を大きく取り上げて、警鐘を鳴らす本。そして、本書のように、どちらでもなく、冷静に事実を分析する本である。最初の2種類の本は多いが、本書のような種類の本はほとんどない。その中でも、本書は本当に出色のできとでもいうべき内容の本である。
 筆者は、あのニコニコ動画で有名なドワンゴの会長である。いわば、ネットビジネスの最前線にありながら、冷めた目でネットに関わる様々な現象を切り取るところは、技術者でもあり経営者でもある筆者ならではである。
 たとえば、ビットコインに関して、そのP2Pの仕組みの上から、サーバー型の決済システムの代替にはなり得ないという技術面での指摘。逆にP2Pであることが、政府などの中央銀行に依存しないという中立性こそが重要だというイデオロギーがビットコインを支持しているという指摘。ビットコインがどのように動作するのかという解説は多いが、技術的限界とイデオロギー側面のこの2つを、これほど簡潔に解説した本は、この本が初めてである。
 他にも、コンテンツビジネスやネットにおける国境など、多様な面からネットを見ることができる。現在出ている本の中でも最高の解説書だろう。

鉄道技術の日本史:鉄道のことを知らない人でも日本の鉄道の技術がよく理解できる本

 私は鉄道の事はあまり知らないし、それほど好きでももない。だが鉄道の技術と言われると少し知りたいと思う。
 少し知りたいというのは、深くは知りたくはないが、なんとなくわからせてくれる本があれば読んでみたいという意味でもある。この本は、そんな要求に応えてくれる本である。
 蒸気機関車の技術を外国から導入する時代から始まって、ディーゼル機関車、電車、新幹線。さらにはリニアモーターカーについてその技術の進歩を簡潔に紹介している。特にわかりやすいのはその技術がどのようなニーズから出てきた技術であるかを丁寧に説明しているところである。さらに鉄道といっても列車だけではなく、線路の工事などについても解説されていて、この1冊で鉄道技術の全貌を理解できた気にさせてくれる。

マックスウェルの悪魔―確率から物理学へ:エルゴート仮説から出発する統計力学

 初版は昭和45年という本当に古い本である。しかしそれが新装版として復刊されたのにはワケがある。専門家ではないが科学に興味のある人達にとって分かりやすく解説するというブルーバックスの本の中でも筆者の本は最も定評のあった本だったからだ。私も高校時代にむさぼるように読んだ覚えがある。タキオンという言葉はこの筆者の本で読んだはずだ。
 本書は、「考えられるすべての状態の持つエネルギーに大小がなければこれらすべての状態は同じ頻度で起こりうる「というエルゴート仮説を活用することによっていろいろな事象を説明していく。
 今回久しぶりに筆者の本を読んで気がついたのは、本筋以外の余談が結構書かれているということである。高校時代に読んだときにはそんな事は全く気がつかなかった。

 

NHK幻解! 超常ファイル:TV番組より本の方が手軽

 このブログの分類で科学に分類してみた。世の中で超常現象と言われている現象に、科学的なアプローチで解明してみようという内容だがらである。NHKの放送の副読本的な位置づけの本である。
 TV番組の方は、一度見て、見るのをやめた。何となく、ダラダラした内容だったからだ。本の方は、内容のエッセンスを取り出して紹介しているので、2時間もあれば、読める。
 まず驚くのは世の中にはこれほど多くの超常現象があるということだ。この本でも、その全てを解明できているわけではない。ただ、オーパーツとして有名なクリスタル・スカルの話は明快で、超常現象のかなりの部分は、この手の話の同工異曲なのだろうと想像できる。

 

数学・まだこんなことわからない:かろうじて素人にも理解できる数学の未解決問題の解説本

 数学の未解決問題を解説した本である。私は、一応理系の大学を卒業しているが、数学の未解決問題は、そもそもその問題そのものが理解できないことが多い。未解決問題に関する本は多いが、全く理解できないか、やさしく解説しようとしてよけいにわからなくなっているか、数学者の苦闘の歴史になっているかのいづれかである。そんな中で、未解決問題そのものの輪郭だけでも理解させようとする本書は、素人にもかろうじて理解できる内容である。ただ、数学が苦手であった文系の人に勧められるかというと、さすがに読むのは難しいのではないか、と思う。
 さらに、最近の数学の進展により、中身が古くなっている部分もある。だが、この本は、そもそも問題に関する解説なので、古い本だから価値が減ずるわけではないだろう。

 

ゼロからトースターを作ってみた:課題設定は面白いのだが、少し腰砕け

 ゼロからトースターを作るということに挑戦した若者の記録。このゼロから、と言う意味が、そもそも鉄鉱石から鉄を作る、という本当に「ゼロから」トースターを作ることに挑戦している。
 課題設定は、非常に面白い。この課題設定の面白さにひかれて、本書を読んだのだが・・・。途中で少し飽きが来てしまった。課題設定は面白いのだが、この若者の行動に感情移入できないのである。ちょっと、腰砕けの読後感である。