一気に同時読み!世界史までわかる日本史:いい企画だが内容が教科書的

 日本では、自分の国の歴史つまり日本史と、世界史とを別々に勉強する。でも、こういう教え方は、一般的ではないようだ。海に囲まれ、他の国の直接的影響が少なかった日本ならではのことなのかもしれない。
 本書は、日本史と世界史とを、同じような年代で構成して、世界史の中での日本史という歴史を解説しようという試みである。私の頭の中でも、日本史と世界史は別々のものとして存在しているので、この試みに興味を持って、読んでみた。企画はいいのだが、さすがに新書版で、日本史と世界史の通史をとなると、1つ1つの記述は教科書的な簡単なものになってしまう。結果として、読んでいて面白くないのである。しかも、最近の教科書のように、写真が豊富というわけでもないので、途中で読む気がなくなる。企画は魅力的なので、このアプローチで、もう少し時代を絞って解説した本を期待したい。

最古の文字なのか?:洞窟の絵画ではなく記号に関する研究

 少し前に開催されたラスコー展が盛況だったように、洞窟に残された絵画は我々を魅了する。ところが、そうした注目を浴びる絵画のそばに、ひっそりと記号のようなものが描かれているという。本書は、それまでの研究では着目されてこなかった記号に着目した研究をめぐる物語である。
 研究そのものに関する本ではなく、著者が関わっている研究をめぐって、洞窟の中へ入って写真を撮るということはどういうことか、などのエピソードをふまえて、ノンフィクション風に書かれているので、面白く読める。
 本の主張そのものである、これらの記号は、文字ではないが、人類が文字を発明する前の重要なものなのではないか?という仮説は、非常に説得力がある。本書が、まだ博士課程の学生による著書であるというのも驚かされる。

日本史から見た日本人 昭和編(上):統帥権の問題を明確に解説

 日本を太平洋戦争に駆り立てた原因の1つが統帥権の問題である、というのは、司馬遼太郎も指摘している。だが、司馬遼太郎が、その統帥権が暴れだす時代を描くことは、ついになかった。
 その原因が明治憲法にあり、その欠点を誰がどのように利用して、統帥権という化け物に育てていったのか。その化け物化に対する抵抗と挫折の歴史がまとめられている。
 本来なら、明治憲法の欠点を改正すればよかったのだが、不磨の大典と呼ばれた明治憲法を改正するということは、誰にもできなかった。人が作った仕組みを聖域化してしまうことの恐ろしさがよくわかる。

世界をつくった6つの革命の物語:普通とは違う切り口で技術革命を語る

 よくある技術革命物語である。ただ、本書が、他の類書と異なるのは、その切り口が「ガラス」「冷たさ」「音」「清潔」「時間」「光
」という切り口で、それぞれが果たした役割を語ることである。
 1つ1つの切り口は確かに納得である。ただ、この切り口が、代表的な切り口かというと違う気もする。読み物としては、類書に比べて、かなり読みやすい。

塩の世界史:塩に関するエピソードが満載

 塩に関して、塩の作り方や、専売の歴史、塩を使った食料など、ありとあらゆるエピソードが満載である。
 でも、それだけである。歴史の中で果たした役割が、わかりにくい。たぶん、これらのエピソードが語られる歴史に関する知識不足からくるのだろう。海外の著者の書く歴史本を読むことは難しい。

 

歴史の遺訓に学ぶ:渡部昇一と堺屋太一に学ぶ歴史の偉人

 日本史の中から特筆すべき偉人を取り上げて、その偉人たちが日本史において果たした役割を、渡部昇一と堺屋太一の2人から教えていただく、というありがたい対談集である。
 取り上げられた人数が多いので、ちょっと1人1人の掘り下げが足らない部分もある。ただ、あまり掘り下げると、対談にならない部分もあるのかもしれないので、この程度がちょうどいいのかも、という気もする。
 渡部昇一と故谷沢永一との対談は、息が合って丁々発止というリズムであったが、本書ではさすがにそこまでいかない。

 

神々の系譜:日本の神話について、いろいろな角度から解説

 日本の神話について、一般の読者を対象とした本では、史実と対応して解説していることが多い。本署は、それだけでなく、地方の神話をどのように中央政権が吸収してきたがとか、外国の神話との対比などいろいろな角度で神話の解説をしてくれる。
 単なる歴史好きの読者としては、少し情報量が多すぎるが、読み飛ばしでも趣旨はわかるようになっているので、自分の興味のあるところだけ、じっくり読めばいいのではないだろうか。

コンテナ物語:コンテナが輸送だけでなく物流網、産業構造まで変えた

 コンテナは、今や当たり前となった輸送手段である。本署は、その発明から普及までの歴史を追った本だ。
 コンテナ以前の船舶によるモノの輸送は、港における荷物の積み替え作業に多くの時間と人力を要していた。そこにメスを入れたのがマルコム・マクリーンである。コンテナにモノを入れたまま、船に積み込み、そのまま目的地でおろす。さらには、そのまま、トラックや鉄道に載せて運搬するという方法を考案し、実際に事業化した。しかし、その構想の実現には、コンテナを運搬できる船舶、コンテナを扱えるクレーンの開発と設置、などの様々な課題があった。さらには、こうした技術的問題だけではなく、今まで荷役を担っていた港湾労働者の労働問題、輸送に関する規制の問題などの技術以外の問題も山積する。
 こうした問題に対し、先駆者達が地道に解決していく姿は、コンテナが普及してしまった現在の目から見ると、回り道をしているようだが、でも、産業構造まで変えるほどの新しいものを生み出すというのは、こういうことなのだと思う。

 

日本の歴史をよみなおす:百姓と農民は違う

 私が学生だった頃と、現在とでは、歴史の解釈がかなり異なっている。でも、日本の昔は農業社会であった、という認識はそのままである。しかし、本署を読めば、そもそも日本における農業従事者の割合を、百姓=農民という解釈でとらえて、大部分が農民であったという考え方は違うのではないか、というのが本署の主張である。農業社会しか考えてこなかった日本の歴史について、もう一度よみなおしているのが本署である。
 考えてみれば、これだけ海に囲まれた社会なのだから、漁業や海運が発展していたに違いない。また、これだけ森に恵まれた社会なのだから、林業や製鉄が盛んだったに違いない。そうした職業から新たな歴史をよみなおすというのは、今でも新鮮である。

皇帝フリードリッヒ二世の生涯:さすがに塩野七生は読ませる

  塩野七生と言えば、ローマ人の物語だ。あの、超大作を読んだ後では、それ以外の作品は何を読んでも少し物足りない感じがするのは仕方ない。なので、この作品が出ていたことすら知らなかった。文庫本でローマ人の物語を再読してから少し塩野七生から遠ざかっていたからだ。
 本作は、フリードリッヒ二世という1人の皇帝の一生を描くという、過去の作品で言えばチェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷の系統の作品だろうか。1人を描くといっても、その興味の中心は、政治的人間としての行動である。いつもの、カトリック教会ぎらいは徹底していて、中世における教会支配の暗さとそれに対抗しようとして個人としては成功したものの子孫まで考えると結局は挫折した皇帝の一生がよくわかる。