想いの軌跡:塩野七生の今まで本に入っていない文章を集めた本

 この本は、1975年~2012年という長い期間に、塩野七生が発表した文章ではあるが、今まで本に入っていない文章を集めた本である。だが、「読者に」という前書きにあるように、依頼に応じてどこにでも書くというタイプの著者ではないので、1つ1つの文章はそれなりに面白い。書かれている文章は、分野が多岐に渡るので、全てが面白いわけではないが、こういう本は、別に全てを通して読むべき本でもなく、題名を見て面白そうなものを読めばいい。
 さすがに塩野七生である。こんなに長い間に書かれた文章であるのに、時事を扱った話題でなければ、いつ書いた文章なのか判別がつかない。どれもが骨太の塩野七生なのである。へ~と思った箇所を1つだけ引用してみる。

 私の考えでは、国家ないし民族は、大別すれば二種に分類できるのではないかと思う。
 第一種は、あらゆる手はつくしたにかかわらず、衰退を免れることはできなかった国家。俗に言えば、天寿をまっとうしたと言える国家である。古代のローマ、中世のヴェネツィアは、私の考えではこの種に属す。
 第二種は、持てる力を活用しきれなかったがゆえに衰退してしまった国家だから、天寿をまっとうしたとは言えない夭折組に属す。その典型は、古代ギリシアのアテネと中世のフィレンツェだろう。

 こういったさまざまな視点がイタリア文明のみならず人物や映画など様々な分野に対して書かれている。驚くほど多彩な内容の本である。

 

偉いぞ!立ち食いそば:表紙の哀愁の漂う立ち食いそばの風景が絶品

 東海林さだおのエッセイは本当に面白い。この本も面白い。
 この本のエッセンスが、表紙のイラストに集約されている。本書のメインは、立ち食いそばのメニューを全て制覇すると言う内容である。なんと6回に分けてその内容は紹介されている。さらにはそのメニューを全制覇しようとした立ち食いそばの社長との対談まで掲載されている。
 最初の回に、立ち食いそばの正しい食べ方と言うイラストが載っていて、そのイラストのコメントを省いた部分が表紙のイラストなのである。ちなみに本文の中のイラストのコメントを少し引用してみよう。

  • 背中に哀愁が漂うようになれば一人前
  • 表情は「憮然」とが正しい
  • 箸の先で丼を引き寄せる
  • ジャンパーのたぐいが似合う
  • 靴底を見せる
  • 左ひじをカウンターにつける人が多いがむしろポケットの方が小粋に見える

 

 さすが東海林さだおだ。観察の鋭さ指摘の的確さに思わず笑ってしまう。この後、延々と続くそれぞれのメニューに対する感想や思い入れも、例によって独特の表現で書かれている。
 本書では、この立ち食いそばに関する話題以外に、2日間で駅弁を24個食べるという馬鹿げた試みについても書かれている。いずれも抱腹絶倒だ。