ファナックとインテルの戦略:両社の歴史をたどりながら技術戦略を考えさせられる

 インテルのマイコンが日本の電卓メーカーとの共同開発から誕生したことは、よく知られたエピソードである。だが、ファナックが16ビットマイコンの8086の初期のユーザーで、IBMが8088を採用する前に、大量に自社のコントローラに使っていたことを初めて知った。本書によれば、工場という劣悪な環境で使えるように品質向上したことが、後のIBMでのPCに使っても大きな品質トラブルにならなかった1つの要因だったらしい。
 今では、マイコンを使わずに設計するなんてあり得ないだろうと思うが、ファナックがNCにマイコンを使った当時は、そうではなかった。マイコンの能力が貧弱であったため、ハードウエアで組んだNCの方が切削精度や時間などで優れていたのだ。マイコンを使う利点は、小型化と低コスト化であった。性能よりも小型化・低コストが好まれたのは、日本の市場でNCの最大顧客が中小企業であったということである。米国では、NCの最大顧客は大企業であり、性能を望んだ。日本と米国の最大顧客の違いから、結果的にはマイコンを用いたNCが性能を向上させるにつれ、米国の市場も制覇することになった。米国のNCメーカーも日本のNCメーカーも、ともに顧客重視の戦略を取りながら、米国のNCメーカーは長期的には市場競争に敗れることになる。このエピソードは、技術戦略の難しさを考えさせられる。後知恵ではいくらでも解説できるが、その渦中にいる当事者にはわかるものではない。