心の疲れをとる技術:最も実用的なメンタルヘルスの本

 現代人にとってメンタルヘルスというのは重要な健康課題である。いろいろな本も出ている。一般人にとって重要なのは心の病気にかかる前に心の疲れをとることである。
そのためには心の疲れを自覚することがまず第一である。だが実際には体の疲れはわかりやすいが心の疲れを自覚することは難しい。どのように疲れを自覚するか、疲れはどのように進行するか、などについて、具体的かつわかりやすくまとめられている。別のブログでも書いたが、何度か読み返して参考にしている本である。

 

自分にできる努力しなくていい努力:努力信仰を否定し結果が出る努力の方法を示す

 成果を出すためには方法論が必要という著者の議論を努力ということに対して適用してみた本である。努力そのものが尊いという考え方は努力信仰としてあっさりと否定される。努力信仰の最大の問題は、私は毎日努力していると言い聞かせそれだけで満足してしまうことがあるからである。何のために努力をするのかというと、結果を出すためである。結果を出すためにはどのような努力をしなければいけないのか、ということが重要だというのが本書のメッセージである。
 基本的な考え方に加えて、いくつかの具体的なケースに対して、このように考えてみたらどうかという著者のアドバイスが書かれている。その一つ一つのアドバイスは短いものだが、十分に納得のいくアドバイスだと思う。

 

ハーモニー:現在版のアンチユートピア小説

 虐殺器官で有名な著者のSF。一種のアンチユートピア小説である。この世界ではメデッケアという装置が個人個人の健康を管理し、それぞれにふさわしい薬物を提供してくれることによって、健康な生活ができるのである。だがその世界は逆に言えば息苦しい世界でもある。アンチユートピア小説の定番で、その息苦しさから逃れる主人公を中心に話は進む。
 他のブログでも書いたのだが、IoT技術が変な方向に行きすぎると、同じような世界が出現しないとも限らない。

 

虐殺器官: SFから少し離れていた私をSFにひき戻した本

 ゼロ年代最高のSFとしてあまりにも有名な本である。その有名さにふさわしい面白さを持った本でもある。昔SFを好んで読んでいた。ところがある時期から新しく発刊されるSFが私の好みから外れてくる時期があった。ちょうどその頃に、仕事が忙しくなり、その影響でSFを本当に読まなくなった時期があった。
 そんな時に、この本を見つけて本当にそんなに面白い本なのかという疑問を持ちながら読んだが本当に久しぶりに一気に読了することになってしまった。この本でSFの面白さに再び目覚めて最近は少しはSFを読むようになった。

 

英語の発音が正しくなる本:もっと早く出会っていれば・・・

 他のプログでも書いたことがあるのだが、私は本当に英語が苦手だ。だから避けて通れればいいのだが、そうはいかない。いつもは、英語のドキュメントを読めれば済むのだが、たまに英語で話をしなければならないことがある。その都度、少しは勉強しなければ、と思う。
 今、思っているのが、たぶん基礎がなっていないまま、受験英語で積み上げ、海外文献読破で積み上げた英語力は、伸び悩むのだと思っている。基礎は、文法、語彙力、そして発音である。私の場合、最も不足しているのは発音である。発音できないものは聴き取れないという原則で、発音ができていないので、リスニングもできないのだ。わかってはいるのだが、なかなか練習の機会がなかった。英語学校へ通えばいいのだろうが、そうでなければ、正しい発音を勉強するのが難しいのである。
 本書は、DVDで正しい発音を見ることができるという教材である。しかも、説明がうまい。最初のページにある、日本語のアの音に近い英語の母音は8個ある、というところだけでも衝撃だ。こんなこともわかっていなかったのである。母音というのは、声が舌、歯、唇などにじゃまされないで出る音のことだ、というのも初めてしった。
 中高年になってからではなく、もっと若い頃にこの本に出会っていたら、もう少し、正しい発音ができたのではないか、と思ってしまう。中高年になってからでは、結局、8個のアが本当に正しく発音でき、正しく聞き分けられるようになるかは、少し疑問である。だが、少しづつ継続しようという決心だけはしている。

 

新物理の散歩道第1集:古典的な物理学で現象を解明する

 日経サイエンスが好きで、毎月読んでいる。だが、正直、素粒子理論などの最新物理学は難しすぎてよくわからないし、そもそも自分の日常とあまりにも違いすぎて興味を持てないことも多い。
 この物理の散歩道は、今はなき科学雑誌「自然」に連載されていた記事を単行本化したものをさらに文庫本化した本である。最も古い記事の初出が1961年というから本当に古い内容である。物理学を題材にしている本で、こんなに古いものは価値がないかというとそうではない。素粒子理論などの最新物理学を扱っているわけではないからである。基本的には、我々の見える世界、ニュートン力学(古典物理学)が扱う範囲の物理学を扱っている。こういう話題を扱っている記事は、実は最近あまりなく、貴重な内容である。こうした事情を端的に表現した内容が、解説にあったので、少し長いが引用してみる。

 日本の大学では、ロゲルギスト(この本の筆者の名前)の世代までは古典物理学を維持してきた。それが最近では-少なくとも理学部においては-雪崩を打って量子に傾いている。ほとんど古典物理学の痕跡はなくなってしまっただろう。これは由々しきことではあるまいか?
 というのは、実験の方面では、最終的には人が関わる以上、古典物理的な要素は欠かせないからである。工学と人の関わりは言うまでもなく、その基礎として古典物理学は重要である。「なくなった」というのは、だから光学とか流体力学とかいった古典物理学を専門とする部門がなくなったということだ。古典物理学が研究しつくされて問題がなくなったということではない。

 大学というのは、論文にならない研究はできないところである。でも、世の中には、論文にならない問題が多く残っている。この本が、いつまでも読めるということは、逆にいえばこうした題材を扱える研究者がいなくなったということに他ならない。まあ、工学系の先生に残っていればいいのかもしれないが。

 

50歳からの海外旅行術:海外旅行ツアーを題材にした本

 海外旅行に関する本は多い。ところが、その大半は、個人旅行に関するガイドである。ツアーは、選んでしまえば、そのまま連れて行ってもらうだけだ、という考えなのか、ツアーに関する海外旅行術を書いた本は意外にない。この本は、その意外にないツアーに関する本である。
 だが、ツアーに関する旅行術だけで1冊の本になりにくいのか、この本の半分以上は、筆者が参加したツアーの体験記である。旅行術だけを読みたい読者はあてが外れるが、私はツアーと言ってもいろいろあるのだということを実感するのにいい内容であった。

 

想いの軌跡:塩野七生の今まで本に入っていない文章を集めた本

 この本は、1975年~2012年という長い期間に、塩野七生が発表した文章ではあるが、今まで本に入っていない文章を集めた本である。だが、「読者に」という前書きにあるように、依頼に応じてどこにでも書くというタイプの著者ではないので、1つ1つの文章はそれなりに面白い。書かれている文章は、分野が多岐に渡るので、全てが面白いわけではないが、こういう本は、別に全てを通して読むべき本でもなく、題名を見て面白そうなものを読めばいい。
 さすがに塩野七生である。こんなに長い間に書かれた文章であるのに、時事を扱った話題でなければ、いつ書いた文章なのか判別がつかない。どれもが骨太の塩野七生なのである。へ~と思った箇所を1つだけ引用してみる。

 私の考えでは、国家ないし民族は、大別すれば二種に分類できるのではないかと思う。
 第一種は、あらゆる手はつくしたにかかわらず、衰退を免れることはできなかった国家。俗に言えば、天寿をまっとうしたと言える国家である。古代のローマ、中世のヴェネツィアは、私の考えではこの種に属す。
 第二種は、持てる力を活用しきれなかったがゆえに衰退してしまった国家だから、天寿をまっとうしたとは言えない夭折組に属す。その典型は、古代ギリシアのアテネと中世のフィレンツェだろう。

 こういったさまざまな視点がイタリア文明のみならず人物や映画など様々な分野に対して書かれている。驚くほど多彩な内容の本である。

 

高い窓:探偵フィリップ・マーロウの長編の3作目

 探偵フィリップ・マーロウといえば、レイモンド・チャンドラーが創造した有名な探偵である。「高い窓」はその長編の3作目である。「大いなる眠り」「さらば愛しき女よ」「かわいい女」「長いお別れ」「プレイバック」といった作品(そうそうたる作品が並ぶことに驚かされる)に比べるとそれほど有名な作品ではない。
 実際に、読後感も他の有名な作品に比べると少し物足りない部分がある。フィリップ・マーロウものの特徴の1つは、登場人物とフィリップ・マーロウとの関わり合いの面白さである。本作品はその部分が少し物足りないのである。

 

ミステリガール:前作の「二流小説家」と同じくストーリー以外が面白い

前作の「二流小説家」に関する感想を前に書いたが、本書もさすがに同じ作者と思わせる作品である。ストーリーを追う本ではない。本書の中で繰り返される主人公の愚痴とか、サブカルチャーに関する薀蓄とか、妙な脇役との会話を楽しむ本である。
前作と同じく、結末あたりの部分は少し無理がある感じがする。まあ、ストーリーを楽しむ小説ではないので、そのあたりの無理は許せる範囲ではある。