機械との競争:発行から3年で常識化してしまった現実

 労働者が機械との競争に敗れて、仕事を失いつつある。本書が発刊された3年前(2013年(には衝撃的であった内容が、人工知能ブームの現在では、当たり前のことのようになってしまっている。恐ろしい話である。

好きなようにしてください-好きなことをやるのではなく「好きなようにする」

 副題は、たった一つの「仕事」の原則。キャリアに悩む人たちの質問に答えるのだが、その答えが「好きなようにしてください」である。
 この人を食ったような回答の要点は、人はいかに環境論に左右されやすいか、ということである。環境をどう選択するかではなく、自分がすることを選択しなければならない。
 ただ、この回答の素晴らしいことは、「好きなようにしてください」であって、「好きなことをしてください」ではないことである。現在のキャリア論の落とし穴は、自分にあった仕事、自分の好きな仕事があるという前提で、それに向かって、いかにキャリアアップしていくか、というようなことになる。
 そんな、一直線の効率のいい人生なんかないよ、と中年の教授が、あの手この手で話をしてくれる。同じく中年の私には、本当によくわかる。でも、今、キャリアに悩む若者には、わからないかもしれない。それでも、こんな考え方もあるよ、という参考にはなるのではないか。参考にならなくても、その文章のうまさを堪能できる。

働かないオジサンの給料はなぜ高いのか:若手社員の参考になる

 ウケを狙ったのか、題名と内容が食い違っている。副題の「人事評価の真実」がぴったりの内容である。もっといえば、若手社員のための人事評価の真実である。
 会社の説明する人事評価制度は、建前である。
 人事評価は結局は人がする。本当に客観的な評価などはあり得ない。では、どのように評価されているのか、という実態をあからさまに書いてある。少なくとも30年以上サラリーマンをやってきた私の経験に当てはめると、半分以上はその通りだ。所属していた会社が違うのに、半分以上その通りというのは、日本の伝統的な会社にあてはまることも多いのではないだろうか。

戦略読書日記:本の要所の紹介と、その後の筆者の持論爆発の面白さ

 筆者の持論である「経営はスキルではなくセンスである」ということが、経営だけでなく芸論の分野にまで広がって論じられる。本書の面白いところは、あくまで筆者の読書日記である、というところだ。
 だから、持論に入る前に、その本の要所を紹介してくれる。このイントロの部分が抜群に面白いのである。なるほど、そういうことなのか、とわかる。その後で、筆者の持論が爆発し、再びなつほどと思わせてくれる。サービス精神満載である。

石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか?:1次エネルギーの重要性

 石油に関する豊富な話題が興味を引く。しかし、内容で最も重要なのは、石油、石炭、天然ガスなどの1次エネルギーの重要性である。日本のエネルギーに関する議論が、2次エネルギーである電力に偏りすぎている、という。確かに、発電所の話も重要だが、そもそも、その発電所を稼働させるにに必要な1次エネルギーが日本にほとんどない以上、これをどうするか、ということの方が重要だ。

 

ジョナサン・アイブ: Apple社と日本企業でのデザイナーの役割の違いに驚いた

 ジョナサン アイブは、Apple社の様々な製品のデザインをしてきたデザイナーである。そのジョナサン アイブに焦点を当てた本である。
 この本を読んで一番びっくりしたのは、ジョナサン アイブの才能ではなく、Apple社におけるデザイナーの仕事の広さである。日本企業においては、大抵の場合、デザイナーというのは目に見える外観をデザインするにすぎない。
 ところがApple社においては、製品コンセプトそのものだけではなく、製造方法まで含めてデザイナーが検討して、最先端のデザインを実現しているのである。ここまで仕事を広げられるような実力のあるデザイナーが果たして日本にいるのか、そもそもそんなことを許すような企業があるのか、という疑問を感じざるを得ないような内容の本である。

 

ウルトラマンが泣いている:特撮の現場と著作権ビジネス

 私はウルトラマンをリアルタイムで見た世代である。ウルトラマンが放送された翌日に小学校では必ずウルトラマンごっこをしていた。別のブログでも書いたが円谷英二 特撮の軌跡展に行ったり、これもまた別のブログで書いたがウルトラマンデザインで名高い成田亨 美術/特撮/怪獣展などへも行ったりする程度のファンではある。
 CGのない時代に特撮というのは本当に大変であったと思う。それをビジネスとして続けていく苦労は想像以上のものであろう。しかも、先駆者というのは試行錯誤の連続であるので結果的にはいろいろな失敗をする。
 この本の著者は、円谷英二の孫である。題名からわかるように、当然円谷プロの経営について批判的に書かれている。たぶん、ある一面ではこの筆者の言う通りの失敗を重ねていってに違いない。
 特に著作権ビジネスというのは、日本にはなじまない形のビジネスだっただろう。今から思えばこうすればよかったという後悔の連続に思えてくる。特に、孫という立場から考えると、より一層その部分が強調されることになる。
 だが、今でもウルトラマンがある世代にとって一定のポジションを確立しているという意味では、成功であったということも言える。

 

なぜ、我々はマネジメントの道を歩むのか:マネージャー必読の詩

 マネージャー必読と書いてはみたものの、実際には好き嫌いが分かれる本だ。ビジネス書のコーナーへ行くと、著者で本が並んでいる一人である。昔、どんな本を書いているのだろう、と思って、手に取ったことがあるが、その時は、なんて行間ばかりのすかすかの本だろうと思って、買わなかった。
 自分がマネージャーになってから、ある講演会でこの人の語る内容に共感を覚えて、その日からこの著者のファンになった。特に、この本は、自分にとって、マネージャーとはなんであるのかを確認する本になっている。年に1回くらい読み返している。文章は短く、簡潔で、まるで詩のような文体なのですぐに読める。でも内容は深い。読み返すたびに、新しい発見がある。
 長年、絶版になっていたが、電子書籍化されたようだ。

 

仕事に必要なことはすべて映画で学べる:すべてかどうかは疑問だが

 「押井守流の仕事に必要なことは、ある種の映画の見方で学ぶことができる」というのが、正しい題名だと思う。押井守流の話はたぶん好き嫌いがあるだろう。実際に、肉声で聞く話し方はあまり好きにはなれない。ただ、こうやって文章にすると、肉声を聞くほどのアクはないので、それなりに読み通すことはできる。
 内容は、面白い。この中に出てくる映画の中には、観たこともある映画もあるし、そうでない映画もある。観たことのある映画については、へ~こんな見方ができるんだ、と感心してしまった。
 観たことのない映画で、この本を読んでから観た映画としては、「マネーボール」がある。たぶん、この本を読まなければ、私の観る映画の範疇に入っていない映画なので、観ることはなかった。観てみたらおもしろかったので、この本のおかげで観ることができた。ただ、何となく、偏った見方をしてしまっているような気もする。
 そもそも、映画をこういう観点で観て面白いのか、という疑問も出てくる本だ。

 

会社が消えた日:人ごととは思えない物語

 かつて、SANYOという個性的な会社があった。その会社が消えてしまう。経営観点だけでなく、社員の視点からも、消えてしまったSANYOを描いた物語。
 SANYOというのは、SONYやPanasonicに比べ、安物というイメージとユニークというイメージの入り交じったブランドであった。それは、一人一人は個性的で能力があっても、組織化した仕事の苦手なSANYOという会社の特徴がそのまま製品に出ていたのだということが、この本を読むとよく分かる。高度成長期には、一人一人の個性が業績に結びつく。ところが、不景気になると、組織力が十四になる。SANYOは、失われた10年を生き抜くだけの組織力がなかった。そして、個性はないが、組織力で勝るPanasonicに吸収されてしまう。
 SANYOの良いところは、典型的な大企業で官僚的なPanasonicの幹部社員から見て、異質の存在であったであろうことは想像に難くない。個性的なSANYOブランドを支えてきたキーマン達が、Panasonicを追われることになったり、大組織の中で埋没しまう。その物語をも追っていく。
 サラリーマン読者にとって、人ごととは思えない物語である。